お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(三之巻)

根南志具佐 三之巻05

いはひしゞみではすまされぬ、かばやきでもふとの事故ことゆゑ、かつぎしおとこふせう/\にふりかたげ、また二三丁にさんてう程行ほどゆきて、四辻よつじひだりへまがれば、今度こんどはそこらおほさわぎ。大どろぼうめと抓合つかみあひんずこけつのひとくんじゆ。格子かうしはめり/\、皿鉢さらはちはぐわら/\、手桶ておけがきれてみづとべば、たゝみからは黒煙くろけぶりうで彫物ほりものした男ども、おほはだぬぎになつてのさわぎ。きいところ姦夫まおとこ出入でいりはじめいまきるつくかとうちに、イヤ親分おやぶんじやの、わりいれるのと、かくうちに、さけ五升ごせうとけんどん十人前じふにんまへくだらぬ文言もんごんあやまり証文しやうもん一通いつつうで、討果うちはたすほどの出入でいりがついくにや/\と

むつおれして、我等われらをかつぎしおとこめも近付ちかづきかしていり茶碗ちやわんでしたゝか引掛ひつかけ千鳥足ちどりあしにてかへりがけ、馴染なじみうち立寄たちよれば、しん息子むすこ七回忌しちくわいきとて、天窓あたまいつ道心だうしんが、きやりごゑをはりあげてかねたゝいて百万遍ひやくまんべん世帯せたい仏法ぶつほう腹念仏はらねんぶつ豆腐とうふのぐつ干大根ほしだいこんのはり/\ですませばしゞみはいらぬとはねられて、かつぎしおとこはらたて、あたけたいな、いま/\しいとかへりにかはへさらへみしをさいはいと、干汐ひしほにつれていききつかへりし、とかたりもはてぬところへ、つのをおふて一文字いちもんじなつるものは拳螺さゞえにてぞありける。これしのびのやく