お江戸のベストセラー

根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(三之巻)

根南志具佐 三之巻05

▼開

の祝(いはひ)は蜆(しゞみ)では済(すま)されぬ、かばやきでも買(か)ふとの事故(ことゆゑ)、かつぎし男(おとこ)ふせう/\にふりかたげ、又(また)二三丁(にさんてう)程行(ほどゆき)て、四辻(よつじ)を左(ひだり)へまがれば、今度(こんど)はそこら大(おほ)さわぎ。大どろぼうめと抓合(つかみあひ)、組(く)んずこけつの人(ひと)くんじゆ。格子(かうし)はめり/\、皿鉢(さらはち)はぐわら/\、手桶(ておけ)の輪(わ)がきれて水(みづ)が飛(とべ)ば、畳(たゝみ)からは黒煙(くろけぶり)、腕(うで)に彫物(ほりもの)した男ども、大(おほ)はだぬぎに成(なつ)てのさわぎ。聞(きい)た処(ところ)が姦夫(まおとこ)出入(でいり)。初(はじめ)は今(いま)も切(きる)か揬(つく)かと見(み)る内(うち)に、イヤ親分(おやぶん)じやの、割(わり)を入(いれ)るのと、兎(と)や角(かく)と云(い)ふ内(うち)に、酒(さけ)五升(ごせう)とけんどん十人前(じふにんまへ)と下(くだ)らぬ文言(もんごん)な誤(あやまり)証文(しやうもん)一通(いつつう)で、討果(うちはたす)ほどの出入(でいり)がついくにや/\と

むつ折(おれ)して、我等(われら)をかつぎし男(おとこ)めも近付(ちかづき)かして仲(な)ヶ間(ま)へ入(いり)、茶碗(ちやわん)でしたゝか引掛(ひつかけ)て千鳥足(ちどりあし)にて帰(かへり)がけ、馴染(なじみ)の内(うち)へ立寄(たちよ)れば、死(しん)だ息子(むすこ)の七回忌(しちくわいき)とて、天窓(あたま)に輪(わ)の入(いつ)た道心(だうしん)が、きやり聲(ごゑ)をはりあげて鉦(かね)たゝいて百万遍(ひやくまんべん)世帯(せたい)仏法(ぶつほう)腹念仏(はらねんぶつ)、豆腐(とうふ)のぐつ煮(に)に干大根(ほしだいこん)のはり/\で済(すま)せば蜆(しゞみ)はいらぬとはねられて、かつぎし男(おとこ)腹(はら)を立(たて)、あたけたいな、いま/\しいと帰(かへ)りに川(かは)へさらへ込(こ)みしを幸(さいはい)と、干汐(ひしほ)につれて息(いき)を切(きつ)て帰(かへ)りし、と語(かたり)もはてぬ処(ところ)へ、背(せ)の角(つの)をおふて一文字(いちもんじ)に成(なつ)て来(く)るものは拳螺(さゞえ)にてぞありける。是(これ)も忍(しの)びの役(やく)