人なれば、龍王見給ひ、人間界の様子いかに/\とせめ給ふ。其時さゞえにじり出て申けるは、私は小田原町から通り筋を一ぺん廻り候が、先珍しきは石町の角に朝鮮人行列付の看板をおびたゞしくかざりたて、売子大勢にて売あるき、又珍説は、旦那のねつた膏薬売が奥州の相馬にて主の敵を討しとの取沙汰より外、さして替りたる事も承らずと申上れば、龍王大にいかりをなし、汝等評議は何としてヶ様な役に立ず共を忍びには遣せしぞ。此方の入用は菊之丞が船遊の日限なるに、其事は聞ずして役にも立ぬ事
どもを見て帰りしとて、いかめしそふに申段、 言語道断、につくいやつ。是と云ふも、家老用人共が面々の身勝手計を考へて、下々の難儀はかへりみず、鰮やすばしりの類を沢山してやらふと計心がけて、役儀をおろそかにするゆゑ、かゝる大事に魚らしきものもやらず、さゞえや蜆をやりし段以の外の不届と、鱗をさか立怒り給へば、其時鯨鰭をうごかし、仰御尤にて候得共、遣べきもの詮議致せど他の者は水を離れては働こと相ならねば、水を出て息の長ものを選み出せし処に御用に立ざりし段不届