お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(三之巻)

根南志具佐 三之巻06

にんなれば、龍王りうわう給ひ、人間界にんげんかい様子やうすいかに/\とせめ給ふ。其時そのときさゞえにじりいでまをしけるは、わたくし小田原町をだはらてうからとほすぢいつぺんまはさふろが、まづめづらしきは石町こくてうかど朝鮮人てうせんじん行列ぎやうれつつき看板かんばんをおびたゞしくかざりたて、売子うりこ大勢おほぜいにてうりあるき、また珍説ちんせつは、旦那だんなのねつた膏薬かうやくうり奥州おうしう相馬さうまにてしゆうかたきうちしとの取沙汰とりさたよりほか、さしてかはりたることうけたまはらずと申上まをしあぐれば、龍王りうわうおほいにいかりをなし、汝等なんぢら評議へうぎなにとしてヶ様かやうやくたゝどもしのびにはつかはせしぞ。此方このはう入用にふよう菊之丞きくのぜう船遊ふなあそび日限にちげんなるに、其事そのこときかずしてやくにもたゝこと

どもをかへりしとて、いかめしそふにまをすだん言語ごんご道断どうだん、につくいやつ。これふも、家老からう用人ようにんども面々めん/\身勝手みがつてばかりかんがへて、下々しも/\難儀なんぎはかへりみず、いわしやすばしりのるゐ沢山たくさんしてやらふとばかりこゝろがけて、役儀やくぎをおろそかにするゆゑ、かゝる大事だいじさかならしきものもやらず、さゞえやしゞみをやりしだんもつてほか不届ふとゞきと、うろこをさかだていかり給へば、其時そのときくじらひらをうごかし、おふせ御尤ごもつともにて候得共さむらへどもつかはすべきもの詮議せんぎいたせどものみづはなれてははたらくことあいならねば、みづいでいきながきものをえらいだせしところ御用ごようたゝざりしだん不届ふとゞき