なると経文にもなきうそ八百をつきちらし、堂の寄進、釣鐘のほうがなどいひ立衆生をたぶらかすゆゑにや、いつとなく化物仲ヶ間へ入られ、 姫路のおさかべ赤手ぬぐひと一口に謡るゝ事、 仏の教に有べき事にもあらざれども、御上にも能御存の上からは、隠べきにもあらず。しかし他所の御用ならば、人間をたぶらかすは坊主共の得手ものなれば、早速御請申上べけれど、此度の御用には心苦き事の侍る也。其故は、涼船の往来する両国永代の辺には見せもの師共甚多く、唐鳥、熊女、碁盤娘なども
古く、孔雀にも入がなければ、犬にかるわざをさせ甘薯に笛まで吹せる程の者共、何がな珍しき物見出さんと鵜の目鷹の目にてさがし求れば、 私などのやうなる異形の者、あの辺へ㒵出しせば忽にからめとられ、憂目を見んは案の内なり。もとより出家の事なれば、死る命はいとはねども、大切の御用、間違ん事本意なく覚ゆれば、 余人に仰付らるべし。縁なき衆生は度しがたし、仮寺を開とも此儀は御辞退申上んと、 魚溜りへぞ引退く。当時諸人に敬れ、智識呼るゝ海坊主さへ御辞退申上からは