お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(三之巻)

根南志具佐 三之巻09

なると経文きやうもんにもなきうそ八百をつきちらし、だう寄進きしん釣鐘つりがねのほうがなどいひたて衆生しゆじやうをたぶらかすゆゑにや、いつとなく化物ばけもの仲ヶ間なかまいれられ、 姫路ひめぢのおさかべあかぬぐひと一口ひとくちうたはるゝことほとけおしへあるべきことにもあらざれども、御上おかみにもよく御存ごぞんじうへからは、かくすべきにもあらず。しかし他所たしよ御用ごようならば、人間にんげんをたぶらかすは坊主共ばうずども得手えてものなれば、早速さつそく御請おうけ申上まをしあぐべけれど、此度このたび御用ごようには心苦こゝろぐるしことはべなり其故そのゆゑは、涼船すゞみぶね往来わうらいする両国りやうごく永代えいたいへんにはせもの師共しどもはなはだおほく、唐鳥からとり熊女くまおんな碁盤娘ごばんむすめなども

ふるく、孔雀くじやくにもいりがなければ、いぬにかるわざをさせ甘薯さつまいもふえまでふかせるほど者共ものどもなにがなめづらしきもの見出みいださんとたかにてさがしもとむれば、 わたくしなどのやうなる異形いぎやうもの、あのへん㒵出かほだしせばたちまちにからめとられ、憂目うきめんはあんうちなり。もとより出家しゆつけことなれば、しすいのちはいとはねども、大切たいせつ御用ごよう間違まちがはこと本意ほいなくおぼゆれば、 余人よじん仰付おふせつけらるべし。えんなき衆生しゆじやうしがたし、たといてらひらくとも此儀このぎ御辞退ごじたい申上まをしあげんと、 魚溜うをたまりへぞ引退ひきしりぞく。当時たうじ諸人しよにんうやまはれ、智識ちしきよばるゝ海坊主うみばうずさへ御辞退ごじたい申上まをしあぐるからは