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根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(二之巻)

根南志具佐 二之巻12

▼開

もてはやされ、今(いま)三ヶ津(さんがのつ)に此年(このとし)にて此芸(このげい)なしとの是沙汰(このさた)、末頼(すゑたの)もしき若者(わかもの)にてぞ有(あり)ける。頃(ころ)しも水無月(みなづき)の十日(とをか)あまり、わけて今年(ことし)は、去(さり)し頃(ころ)霖雨(りんう)の降(ふり)つゞきて、俄(にはか)に照(てり)あがりたる跡なれば、暑(あつさ)はいつよりも強(いよく)、風見(かざみ)は作付(つくりつけ)たるがごとく、草(くさ)は画(ゑがけ)るに似(に)たり。道行(みちゆく)人(ひと)は汗(あせ)となりて消(きえ)なんかと苦(くるしみ)、犬(いぬ)の舌(した)は解(とけ)て落(おち)んかと疑(うたが)ふ人(ひと)/\、暑(あつさ)をさけん事(こと)をのみはかりけり。菊之丞(きくのぜう)も我家(わがや)にありて暑(あつさ)をなん苦(くるしみ)居(ゐ)ける処(ところ)に、同(おな)じ若(わか)女形(おんながた)、荻野(おぎの)八重桐(やへぎり)来(きた)りけるが

同座(どうざ)の勤(つとめ)といひ、共(とも)に戴(いたゞく)紫(むらさき)ぼうしのゆかり色(いろ)も有中(あるなか)なれば、心置(こゝろおく)べきにしもあらず、そこらを三保(みほ)の松(まつ)ならで、羽衣(はごろも)をぬひで掛(かけ)ざをの掛(かけ)かまいなく打解(うちとけ)れば、菊之丞(きくのぜう)が妻は馳走(ちそう)ぶりと、後(うしろ)から扇(あふぎ)の風(かぜ)も既(すで)にそよ/\深川(ふかがは)にて、人(ひと)なれし者(もの)なれば、葛水(くずみづ)もつめたい所(ところ)へ心(こゝろ)を付(つけ)てのもてなし。一ツ二ツの物語(ものがたり)も半(なかば)は暑(あつさ)の噂(うはさ)なるが、 八重桐(やへぎり)が云(いひ)けるは、わけて今年(ことし)は暑もつよき故(ゆゑ)、 涼船(すゞみふね)の多(おほ)き事(こと)、是(これ)までになき賑(にぎは)ひなり。幸(さいはい)此砌(このみぎり)は芝居(しばゐ)も休(やすみ)の事なれば、一日(いちにち)出(で)なんはいかにと云(い)ふ。菊(きく)