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根南志具佐ねなしぐさ

原文(二之巻)

根南志具佐 二之巻04

らふ一決いつけつせざりしところに、近松氏ちかまつうじとほつおや思兼神おもひかねのかみ進出すゝみいでのたまひけるは、なか/\ほかことにて御機嫌ごきげんなほり給ふまじ。太神おほんがみつね狂言きやうげんこのみ給へば、岩戸いはとまへにて狂言きやうげんはじめなば、きはめ岩戸いはとひらかせ給ふべしとまをしければ、みな/\至極しごくもつともなり、これたしかあたりそふな趣向しゆこうなりとて、さて役者やくしやをぞえらまれける。まづ立役たちやく荒事あらごとつのかつらにての一枚いちまい看板かんばん手力雄神たちからをのかみ丹前たんぜん所作事しよさごと、やつし色事師いろごとしには天児屋命あまつこやねのみこと敵役かたきやくには太玉命ふとだまのみこと、わけて其頃そのころたか黒極こくゞく上々きち女房方にようぼがた娘方むすめがた、おやま、所作事しよさごとひつくるめて、若女わかおんな

かたのてつぺん天鈿女命あまのうずめのみこと其外そのほかなり、新下しんくだり、惣座中そうざちうのこら罷出まかりいで第四番目だいよばんめまでつかまつり御目おんめにかけまするとのはりがみ明日みやうにち顔見かほみせときゝつたへ、諸見物しよけんぶつやまのごとく詰懸つめかくれば、芝居しばゐうちより茶屋ちややかど/\、それ/\のひいきの定紋ぢやうもんつけたる挑灯てうちんほしのごとく。天香山あまのかぐやま五百箇いおつ真坂樹まさかきうへ気色けしきをかざり、常世とこよ長鳴鳥ながなきどりすひものにして呑掛のみかくれば、常闇とこやみあけたる心地こゝちかみ/\はいさみをなし、おもひ/\の積物つみもの天神組てんじんぐみ地神組ちじんぐみ左右さいうにわかち、はなをかざり、きらをつくしけるが、いつあくるともなく