らふ一決せざりし所に、近松氏の祖思兼神、進出宣ひけるは、中/\外の事にて御機嫌は直給ふまじ。太神常に狂言を好給へば、岩戸の前にて狂言を初なば、極て岩戸を開かせ給ふべしと申ければ、皆/\至極尤なり、是は慥に当そふな趣向なりとて、扨役者をぞ撰れける。先立役、荒事、角かつらにての一枚看板、手力雄神、丹前所作事、やつし色事師には天児屋命、敵役には太玉命、わけて其頃名も高き黒極上々吉、女房方、娘方、おやま、所作事引くるめて、若女
形のてつぺん天鈿女命、其外居なり、新下り、惣座中残ず罷出、第四番目まで仕御目にかけまするとのはり紙、明日顔見せと聞つたへ、諸見物山のごとく詰懸れば、芝居の内より茶屋の門/\、それ/\のひいきの定紋付たる挑灯は星のごとく。天香山の五百箇真坂樹を植て気色をかざり、常世の長鳴鳥を吸ものにして呑掛れば、常闇の世も明たる心地。神/\はいさみをなし、思ひ/\の積物、天神組地神組と左右にわかち、花をかざり、きらを尽けるが、いつあくるともなく