お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(二之巻)

根南志具佐 二之巻11

ほんころされてもるやと理屈りくついふべけれども、 是又これまたふあらず。あしことせることやすし、たとへ芝居しばゐでなくとも悪人あくにんになるは、なんのぞうさもなきことなり。たゞぜんうつことつとめずんばなりがたし。 ことおとこにておんなせることは、いたつこゝろもちひずんば上手じやうづにはなりがたし。小伝次こでんじがたしなみ、まことかんずべきことなんめり。近年きんねんは、若女形わかおんながたにて舞台ぶたいいでたるところはやさしくゆれども、つね身持みもちは、けふもあさつても鮫鞘さめざや大脇指おほわきざしをぶつこみ、うでまくりして茶碗ちやわん清左せいざをも

ぢりちらし、無上むじやうにたれをかきさがしまはしたあとでのはりこみあくたい、舞台ぶたいとき仕打しうちとは、お月様つきさまとひしもち下駄げた人魂ひとだまほどちがふたるよし、 たとへ一応いちおう評判へうばんよくとも、名人めいじんことにはいたりがたかるべし。かゝるなかにも蓮葉はしすばにごりにしまぬたま姿すがた瀬川せがは菊之丞きくのぜうとなんいへるわか女形おんながたあり。 此人このひとせん菊之丞きくのぜう実生みしやうにはあらかねのつちなかより掘出ほりだしたる分根わけねなるが、二葉ふたばときよりも生立おひたち野菊のぎくるゐにあらずと、評判へうばん高作たかつくり器量きりやうほかならび夏菊なつぎく