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根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(二之巻)

根南志具佐 二之巻09

▼開

のならぬ浮世(うきよ)なれば、兎角(とかく)得失(とくしつ)は、みな其(その)用(もちふ)る所(ところ)にありと知(し)るべし。芝居(しばゐ)も勧善懲悪(くわんぜんちようあく)の心(こゝろ)にて見(み)る時(とき)は教(おしへ)ともなり、戒(いましめ)ともなれども、是(これ)に溺(おぼる)る時(とき)は其害(そのがい)少(すくな)からず。或(あるひ)はまた、人(ひと)の妻女(さいぢよ)の櫛笄(くしかうがい)に役者(やくしや)の紋(もん)を付(つけ)て頭(かしら)にいたゞくを、涎(よだれ)たらして見(み)て居(ゐ)る亭主(ていしゆ)の鼻毛(はなげ)三千丈(さんぜんぢやう)、たはけによつてかくのごとく長(ながし)と李白(りはく)に見(み)せたら詩(し)にも作(つくり)そふな親玉(おやだま)も世(よ)に多(おほ)し。扨(さて)また、役者(やくしや)も昔(むかし)は名人(めいじん)多(おほ)かりしが、寄年(よるとし)の引道具(ひきだうぐ)には拍子木(ひやうしぎ)の相図(あひづ)もいらず、そろ/\あの世(よ)へせり出(だ)し道(だう)

具(ぐ)、蓮(はす)の台(うてな)へ早替(はやかは)りしてより、堺町(さかひてう)、ふきや町(てう)、木挽町(こびきてう)、三方(さんばう)の芝居(しばゐ)に飾(かざり)海老(ゑび)なく、狂言(きやうげん)の骨(ほね)もぬけたか屋(や)の高助(たかすけ)を始(はじめ)として、名人(めいじん)の名(な)をむなしく印(しるし)の石(いし)にとゞめしより、又(また)名人(めいじん)と呼(よば)るゝ人(ひと)の希(まれ)なるは何(なに)ごとぞや。されば、諸芸(しよげい)押(おし)なべて昔(むかし)の人(ひと)よりおとれるは、近世(きんせい)人(ひと)の心(こゝろ)懦弱(だじやく)にして、小利口(こりこう)にして、大馬鹿(おほばか)なる故(ゆへ)なり。昔(むかし)の役者(やくしや)は師(し)に随(したがつ)て随分(ずいぶん)其業(そのわざ)を伝(つた)へ、昼夜(ちうや)心(こゝろ)を用(もちひ)たるゆゑ、名(な)を揚(あげ)しもの多(おほ)し。近年(きんねん)の役者(やくしや)は、師匠(しせう)と云(い)ふも名字(めうじ)を貰(もら)ふ計(ばかり)にて、山上(さんじやう)参(まゐ)