お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(二之巻)

根南志具佐 二之巻09

のならぬ浮世うきよなれば、兎角とかく得失とくしつは、みなそのもちふところにありとるべし。芝居しばゐ勧善懲悪くわんぜんちようあくこゝろにてときおしへともなり、いましめともなれども、これおぼるとき其害そのがいすくなからず。あるひはまた、ひと妻女さいぢよ櫛笄くしかうがい役者やくしやもんつけかしらにいたゞくを、よだれたらして亭主ていしゆ鼻毛はなげ三千丈さんぜんぢやう、たはけによつてかくのごとくながし李白りはくせたらにもつくりそふな親玉おやだまおほし。さてまた、役者やくしやむかし名人めいじんおほかりしが、寄年よるとし引道具ひきだうぐには拍子木ひやうしぎ相図あひづもいらず、そろ/\あのへせりだう

はすうてな早替はやかはりしてより、堺町さかひてう、ふきやてう木挽町こびきてう三方さんばう芝居しばゐかざり海老ゑびなく、狂言きやうげんほねもぬけたか高助たかすけはじめとして、名人めいじんをむなしくしるしいしにとゞめしより、また名人めいじんよばゝ人ひとまれなるはなにごとぞや。されば、諸芸しよげいおしなべてむかしひとよりおとれるは、近世きんせいひとこゝろ懦弱だじやくにして、小利口こりこうにして、大馬鹿おほばかなるゆへなり。むかし役者やくしやしたがつ随分ずいぶん其業そのわざつたへ、昼夜ちうやこゝろもちひたるゆゑ、あげしものおほし。近年きんねん役者やくしやは、師匠しせうふも名字めうじもらばかりにて、山上さんじやうまゐ