聲あり、太神御聲うるはしく、今朕が岩戸をたてん、いやたてさせじと争ところに暫と留て出たは何者なるぞ、と宣ふ内、拍子木俄に、くわた/\/\、大薩摩尊浄瑠璃をかたり給へば、切幕をさつと明、柿のすはうに大太刀はき、市川流の㒵のくまどり、鬼か、イヽンニヤ、神か、ムヽエイ手力雄尊だモサア、とせりふに味噌を八百万程上て、つる/\と立寄、何の苦もなく岩戸を取てつまみ砕、天照太神を引出し奉る。中臣神、忌部神、端出之縄を引渡す。日の神出させ給ひければ、昔
のごとく明るくなり、人の面しろ/\と見えしより、芝居を見て面白やといふ事は此時よりぞ始りける。扨また同じ神代に、彦火々出見尊の太夫元にて火酢芹命など狂言興業ありけれども、金元なかりし故に、赭とて赤き土を手にぬり㒵に塗て勤られしかども、一向に入もなくて太夫元の名代もつぶれける。又、翰林葫蘆集などを考れば、古は神楽とも云しを、聖徳太子、 神楽の神の字の真中に墨打をして、秦河勝に鋸にて引割せ、是を名付て