お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(二之巻)

根南志具佐 二之巻06

ごゑあり、太神おほんがみ御聲おんこゑうるはしく、いまちん岩戸いはとをたてん、いやたてさせじとあらそふところにしばらくとめいでたは何者なにものなるぞ、とのたまうち拍子木ひやうしぎにわかに、くわた/\/\、大薩摩尊おほさつまのみこと浄瑠璃じやうるりをかたり給へば、切幕きりまくをさつとあけかきのすはうに大太刀おほだちはき、市川流いちかはりうかほのくまどり、おにか、イヽンニヤかみか、ムヽエイ手力雄尊たちからをのみことモサア、とせりふに味噌みそ八百万やほよろず程上ほどあげて、つる/\と立寄たちよりなんもなく岩戸いはととつてつまみくだき天照あまてらす太神おほんがみ引出ひきいだたてまつる。中臣神なかとみのかみ忌部神いむべのかみ端出之縄しりくめなわ引渡ひきわたす。かみいでさせ給ひければ、むかし

のごとくあかるくなり、ひとかほしろ/\とえしより、芝居しばゐ面白おもしろやといふこと此時このときよりぞはじまりける。さてまたおな神代かみよに、彦火々出見尊ひこほゝでみのみこと太夫元たゆふもとにて火酢芹命ほのすそりのみことなど狂言きやうげん興業かうぎやうありけれども、金元かねもとなかりしゆゑに、そぼにとてあかつちにぬりかほぬりつとめられしかども、一向いつかういりもなくて太夫元たゆふもと名代なだいもつぶれける。また翰林葫蘆集かんりんころしうなどをかんがふれば、いにしへ神楽かぐらともいひしを、聖徳しやうとく太子たいし神楽かぐらかみ真中まんなか墨打すみうちをして、秦河勝はたのかはかつのこぎりにて引割ひきわらせ、これ名付なづけ