結句能などゝて来るものも多かりしが、次第に世間かまびすしくなりければ、後には遊者もなく、大夫、格子、さんちやより河岸女郎に至まで、さしも多かりし馴染の客も、科戸の風の天の八重雲を吹はなつことのごとく、繁木が本を焼鎌の敏鎌を以て打掃ふ事のごとく、こととふ者もあらざれば、忘八夫婦は頭痛八百、やりて、若い者などを呼寄、コリヤマアどふしたらよかろふと四人額に皺をよせ、八の耳をふり立て、色/\評議の詮もなく、口に諸/\の噂はすれ
ども目に諸の客を見ず。借の有茶屋、船宿は払給へ清め給へと、せがむべき相手もなく、牽頭が貰つた紙花も、坎艮震巽の卦に当たとの悔言。 其外、上下押なべて勝手によいといふものは、 只鼠と朝寝好の男より外はなし。是では世間さゝほうさになりてたまるまいと、八百万の神、 天ノ安ノ河辺に会て色/\評義ありけれども、さして尤らしき事もきこえず。或は石屋に入札させ、天窟屋を切開んといへば、イヤ/\若太神怒給ひて飛去て、甚難渋なるべしと評議さ