お江戸のベストセラー

根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(二之巻)

根南志具佐 二之巻02

▼開

相代(わいだめ)をも知(し)らず。初(はじめ)の程(ほど)は行燈(あんどん)挑灯(てうちん)にても用(よう)を弁(べん)じけるが、何(なに)が家々(いへ/\)にて昼夜(ちうや)不断(ふだん)とぼす事(こと)なれば、俄(にわか)に蝋燭油(らうそくあぶら)の切(きれ)もの、次第(しだい)に直段(ねだん)は高間(たかま)が原(はら)。神(かみ)の力(ちから)にも自由(じゆう)にならぬは金銀(きんぎん)なれば、中(ちう)以下(いか)にては挑灯(てうちん)とぼすことなどもならざれば、 馬士(まご)の神(かみ)、車引(くるまひき)の神(かみ)などは、あられぬ所(ところ)へ引(ひつ)かけて、神(か)ンたゝきに扣合(たゝきあひ)、神(かん)抓(つかみ)に抓合(つかみあひ)、町(まち)/\小路(こうぢ)/\にて喧𠵅(けんくわ)のたゆる隙(ひま)もなし。されども闇夜(やみよ)の盲打(めくらうち)、誰(だれ)相手(あいて)と云(い)ふ事(こと)も知(し)れず、公(おほやけ)へ持出(もちだ)しても、くらがりに牛(うし)つないだ様(やう)にて是非(ぜひ)のわかちも

付(つき)がたければ、先(まづ)世(よ)の中(なか)の明(あか)るく成(なる)までは名主(なぬし)の神(かみ)、大家(おほや)の神(かみ)へ御預(おあづけ)との事(こと)なり。扨(さて)また世間(せけん)のつきあひ等(とう)は、麁服(そふく)にても目(め)に立(たゝ)ねば、始末(しまつ)にはよけれども、或(あるい)はいつ何日(いつか)に御出合(おであひ)申(まをす)べしといふ事(こと)も正真(しやうしん)の闇夜(やみよ)の鉄砲(てつぱう)にて、あてどもなく、物(もの)を洗(あらふ)ても火(ひ)であほるより外(ほか)は干(ほす)べき手(て)だてもあらざれば、士農(しのう)工商(こうしやう)の神(かみ)/\、業(わざ)を勤(つとむ)る事(こと)もならず。中(なか)にも色里(いろさと)にては、いつを夜(よ)みせと時(とき)も知(し)れねば、物日(ものび)などゝいふ事(こと)もなく、花(はな)の時(とき)やら燈籠(とうろう)やら、わけもなくなりゆき、客(きやく)も初(はじめ)の程(ほど)はしつぽりとして