お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(二之巻)

根南志具佐 二之巻02

相代わいだめをもらず。はじめほど行燈あんどん挑灯てうちんにてもようべんじけるが、なに家々いへ/\にて昼夜ちうや不断ふだんとぼすことなれば、にわか蝋燭油らうそくあぶらきれもの、次第しだい直段ねだん高間たかまはらかみちからにも自由じゆうにならぬは金銀きんぎんなれば、ちう以下いかにては挑灯てうちんとぼすことなどもならざれば、 馬士まごかみ車引くるまひきかみなどは、あられぬところひつかけて、ンたゝきに扣合たゝきあひかんつかみ抓合つかみあひまち/\小路こうぢ/\にて喧𠵅けんくわのたゆるひまもなし。されども闇夜やみよ盲打めくらうちだれ相手あいてことれず、おほやけ持出もちだしても、くらがりにうしつないだやうにて是非ぜひのわかちも

つきがたければ、まづなかあかるくなるまでは名主なぬしかみ大家おほやかみ御預おあづけとのことなり。さてまた世間せけんのつきあひとうは、麁服そふくにてもたゝねば、始末しまつにはよけれども、あるいはいつ何日いつか御出合おであひまをすべしといふこと正真しやうしん闇夜やみよ鉄砲てつぱうにて、あてどもなく、ものあらふてもであほるよりほかほすべきだてもあらざれば、士農しのう工商こうしやうかみ/\、わざつとむこともならず。なかにも色里いろさとにては、いつをみせとときれねば、物日ものびなどゝいふこともなく、はなときやら燈籠とうろうやら、わけもなくなりゆき、きやくはじめほどはしつぽりとして