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根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(二之巻)

根南志具佐 二之巻08

▼開

度(たし)といへるを、傍(かたはら)の人(ひと)聞(きゝ)て、何故(なにゆゑ)松魚(かつを)になり度(たき)やといへば、松魚(かつを)は、うまきものなればなりといへるに同(おな)じ。松魚も喰(く)ふてこそ味(あぢ)あるべけれ、我(われ)松魚(かつを)になりて人(ひと)に喰(くは)れては、我(われ)はうまくはあるまじ。狂言(きやうげん)も役者(やくしや)にさせて見(み)るはよし、自(みづから)是(これ)をするとも面白(おもしろく)はあるまじきことなれども、楽(たのしみ)はまた其中(そのうち)に有馬筆(ありまふで)。人形(にんぎやう)まわしや狂言(きやうげん)にて日(ひ)を暮(くら)す貴人(きにん)の心(こゝろ)の楽(たのしみ)とする所(ところ)のひれつなる事(こと)は、 我心(わがこゝろ)に問(とふ)て知(しる)べし。曽子(そうし)は飴(あめ)を見て老(おひ)を養(やしなは)んことを思ひ、盗跖(とうせき)は是(これ)を見(み)て錠(ぢやう)をあけん

ことを思(おも)ふ。下戸(げこ)は萩(はぎ)を見(み)てぼた餅(もち)を思(おも)ひ、歯(は)なしは浅漬(あさづけ)を見(み)て山葵(わさび)卸(おろし)を思(おも)ふこと、皆(みな)人(ひと)/\の好所(すくところ)へ情(じやう)の移(うつる)が故(ゆゑ)なり。好(すき)こそ物(もの)の上手(じやうづ)なりとて、親好(おやすき)は孝行(かう/\)の名(な)を上(あげ)、主(しやう)好(すき)は忠臣(ちうしん)の名(な)を残(のこ)す。是等(これら)の好(すき)は積(つむ)ことをいとはず。其余(そのよ)の事(こと)は、 好(すき)なりとて心(こゝろ)をゆるす時(とき)は害(がい)をなすこと少(すくな)からず。食(しよく)は躰(たい)を養(やしな)ふ物(もの)にして、過(すぐ)る時(とき)は命(めい)をそこなひ、酒(さけ)は愁(うれひ)をはらふといへども、内損(ないそん)の愁(うれひ)は、のまぬ先(さき)の愁(うれひ)にまされり。火事(くわじ)がこわひとて一日(いちにち)も火(ひ)を焚(たか)ずしては、逗留(とうりう)