こうして、もぐさ軍は、“くんさい” を大将とし、“千梃入り袋もぐさ” を先頭に “かわらけ入り” を引き連れ、絵草紙の陣へと押し寄せた──が、しょせん相手は草双紙、切ったところで浅草紙。これは、汚してしまうか引き裂いて捨てるほうが効果的だろうということになり、三百余騎の軍兵が、それぞれ大字・中字・細字の筆にスミをたぷたぷと含ませて、向かう者を拝みけし、めぐり逢えば車ぬり、ミミズの落書き十文字、手あたり次第になぐり書きすれば、絵草紙も一枚絵も、ほうほうの体で逃げ回る。
敵も味方も入り乱れ、もぐさ(いくさ)は花をぞ散らしける。
塗っ手(寄せ手)の大将くんさい、指図する。
筆(腕)に力は覚えたり。筆もの(目にもの)見せんと塗るままに。
こちらは絵草紙軍。
敵は切りもぐさなので、切られても何とも思わず向かってくる。唐紙表紙は辛き目に合い、青本は青くなって顔色を失い、赤本は赤っ恥かいて逃げ回る。
大将の古状揃は、弁慶状の勢いで突進したが、大筆にスミを含み状に手習い状のように塗りたくられて、逃げるように引き返す。
侍大将、削七兵衛が追っかけて来て、後ろへ引けばひきのやも、身をどらやきと前へ行く。