道意たちは、姫君のお灸のために北条屋敷の控えの間へ出向く。孫兵衛が姫君のお気をまぎらすために絵草紙をあるったけ持参したので、姫君も退屈することなく、熱さも忘れてお灸がどんどんはかどり、ちょっとの間に切りもぐさを三升も据えなさった。
柳庵「新五左衛門どの、あとのお灸を早く、早く。」
新五左衛門「柳庵どの、もう一升済みましたか。さてさて、すごい勢いでござる。これで、都合二升お渡ししますぞ。」
せきや「さあさあ、もっと面白い絵草紙を出しなさい。絵草紙をご覧になると、お気もまぎれて、お灸がちっとも熱くないとのこと。早く!早く!」
孫兵衛「これはどうも、忙しくて目が回る。まるで師走の新板物おろしのようだ。」