姫君の誘惑がうまくいきかけたとき、いけすか新五左衛門が頼朝公に気がついた。
「不義者なり!!!」
頼朝公に飛びかかり、さんざんに殴りつける。
あわてて、せきやがその場をおさめようと色仕かけでせまる。もともと新五左衛門はせきやに首ったけなので、メロメロになっておとなしくなった。
「いけすかさん、これもお姫様のちょっとした出来心。私がおまえに惚れたら、おまえ憎いかえ? こう手を握ったら腹が立つかえ?」
形勢逆転した頼朝公は、新五左衛門の夜着の四隅を灸箸で打ちつけ、超特大の灸を据えてこらしめなさる。
「もしこのことを時政どのへ言いつけたら、もっと大きい “あたた(お灸)” を据えるぞ。おとなしくしろ。さあ、告げ口するか? しないか?」
新五左衛門「せきや坊、そなたが愛しいばっかりで、この若衆をぐっと許してやりのさや。ロウソクより大きな灸を据えるとは、あんまりむご印、むごいの根だ。どうぞ許しておくれ。好いた男の苦難を笑っているとは心ない。ああ熱や、たえがたや。それにつけても懐かしいのは、ひきのやのどらやきじゃ。さつまいもはないか? 幾代餅はないか? あるめぇ、あるめぇ。」
人をとがめるときに「釘をさす」「灸を据える」と言う言葉は、この時から始まった。