お抱え医者のくだす流庵の提案で、姫君のご病気をなぐさめるため、さっそく山内屋孫兵衛を呼び寄せた。孫兵衛は、唐紙表紙をはじめ、赤本、青本、黒表紙、一枚摺りの漆絵など、新板古板の数々を取り集めて持参した。
すると、腰元せきやが孫兵衛を物陰へ誘ってヒソヒソと話しはじめる。
せきや「じつは、姫君のご病気は、このあいだ鶴岡八幡宮へご参詣のときに、もぐさ売りの若衆を見初めなさっての恋わずらい。この若衆は、きっと当国の者。どうか探し出して、姫君の恋を取り持ってさし上げよ。」
孫兵衛「それは、たいへんお安い御用。その若衆なら、私の隣りのもぐさ屋のせがれでござります。さいわい、姫君がお灸の治療をなさると聞きましたが、そのもぐさの御用を利用して若衆がお屋敷に出入りできるよう算段を立てましょう。
そいつは、ほんと新車に生き写し。この絵よりも、もちっと似ていやすよ。」