お江戸のベストセラー

三升増鱗祖みますますうろこのはじめ

16

三升増鱗祖 16

その後、頼朝公は天下の主人あるじとなり、ついに本懐を遂げて世も栄えた。

さて、もぐさ屋道意は武蔵国の江戸へ下り、大伝馬町三丁目とおり旅籠町はたごちょう)へ店を構え、北条時政より賜わった三升の紋の中へかたばみをつけて定紋とし、「平」の字を使って三升屋平右衛門みますやへいえもんと名乗る。
商いはますます繁盛し、切りもぐさの元祖と仰がれ、やがて富貴の身となった。

くんさいもぐさをくんさいませ。千挺入りを二箱、買いますべい。ここさあ、くんさいませ。」

注釈

大伝馬町三丁目
大伝馬町三丁目は通旅籠町の俗称。通旅籠町にあった呉服屋大丸が、店のブランドイメージを上げるために「大伝馬町三丁目」を自称したことで広まった。
かたばみ
かたばみ紋。生命力の強いカタバミの葉をあしらった紋で家紋としてよく使われる。
くんさい
薫臍(くんさい)薬。火にいぶして使う薬の総称。「くんさい」と「臭い」と「ください」をかけている。