むかし、近江国の伊吹山のふもとに永持道意という者がいた。もとは藤原氏に縁のある男だが、保元の乱を避けてこの地に引っこみ、伊吹山のヨモギでもぐさを作って商売をしている。
ある日、道意はもぐさ作りに疲れてウトウトしているときに、不思議な夢を見た。
「よいかな、よいかな。私は、伊豆国の山内屋という者の地に住む池洲稲荷である。
汝に告げる──。
今宵、義朝の三男坊の頼朝がこの地へやって来る。彼には、ゆくゆく天下を治め世に泰平をもたらす大物の相があるが、彼を助けて面倒をみれば……汝の行く末も大当たり! よいな、ゆめゆめ疑うでないぞ。」