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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之二)

風流志道軒伝 巻之二 10

なれば富[め]人々は冬籠ふゆごもり炬燵こたつに薬喰の用心するさへ、手水鉢の檜杓ひしやくも氷にとぢられ、軒の氷柱つらゝつるぎさかしまに植[ゑ]たるがごとくなれば、おのづから寒気にあてらるゝに、其日のいとなみ事しげき者は、さま/\のわざに雪氷をもいとはず、西を東、南を北と立[ち]さはぎ、手足にはひゞあかぎれ、我身をそんずるをもいとはず。或はつよき力わざする者なんどは、かゝるさむき時さへはだへをあらはしあせをながし、わづかの価の為に使はるゝ下ざまの世渡を貴人は思ひはかるべき事にぞ有ける。わけて煤払すゝはらいのそう/\しき、布子の

上にひとへなるを引[つ]ぱり、常は事たらぬ道具なれども、かゝる時は多きやうに覚ゆるを手々に持[ち]はこびて、御祓おはらひは屏風の内に鎮座まし/\、持仏は半櫃はんびつの上に来迎らいごうあり。用にも立[た]ず、捨[つ]るにもをしかりしものなんども渋紙しぶかみ包込つゝみこまれ、久敷く見へざりしうつわなど物のそこより出[で]たるも嬉しく、またはまつたき道具を持[ち]はこぶとて損じたるを我は知らぬなんど下部はとがをゆずり合[ひ]たゝみのごみもたゝき仕舞て、諸道具片付[け]たるさま、さながらきよらには見ゆれども、からだを見れば手足もなべそこなんど