ば、風流の若イ者は魂のおり所を知らず。コリヤマタ組がはり込[み]も、いま/\しい程美しいと云[は]れぬ世話をやき餅も、歯にこたへて来る時分は、もふのらつきも廿日正月。柳は色を含、梅は香を吐出す。鳥の囀さわやかに、東風吹[く]空の長閑なるを、ふりさけ三輪の神ならで、いとゆう/\と吹[き]すさむ風巾の数々は天をいろどり、垣根には薺、蒲公英の花盛なるに隣の姥様もうかれ出し、涅槃参の数珠袋に臍くり金の底をたゝき、彼岸といへば只だんごとのみ覚[え]たるもおかし。
白酒売りの聲春めきて、十軒店のわたりどよみ出せば、菱餅のこしらへいそがしく、鶏合の人だかり、汐干の蛤、まだふみも見ぬ尼法師まで梅若参、我一とまつさきの田楽も焼野の雉ほろゝ打つ。昨日今日と移行飛鳥山の花盛に、染井のつゝじ色を争ひ、毛氈の虹道にたなびき、掛香の匂ひは草に残る。鋲乗物のしとやかに、繋馬の不遠慮なる、聲色浄瑠璃のかまびすしき。なま酔の腕まくりと未熟なる詩歌発句に、あたら桜を穢さんよりは、只友どち打[ち]