お江戸のベストセラー

風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之二)

風流志道軒伝 巻之二 02

ふくみ、其金つかふ胸算用むなざんようはすれども仏の恩さへ思はず。あげ法事頼[み]て来れば、名聞みやうもん盛物もりものも人の見る方は飾れども仏には巻藁まきわらばかりをかざませ、あまつさへむしがへしをくらわせ、朝晩の勤も随分外へ聞へる様にかねも高くは叩けども、砂かむよりはじゆつない念仏。金持は金遣はず、鑓もちは鑓遣はず、髪結かみゆひ我髪結[は]ず、弁当もち先へ喰[は]ず、とりあげ姥子をうまず、風呂ふろたきあかだらけ、けんどん屋飯を喰ひ、売は笠でひると、医者いしやの不養生、坊主の不信心、昔よりして然り。出家もと木のまたからも出[で]ず、うま

物の旨ひと、面白ひ物の面白ひは皆同事なり。椎茸しひたけ干瓢かんぴやう長芋ながいも蓮根れんこん、南無阿弥豆腐どうふ油揚あぶらあげにて、ゆく/\心にたらざれば、柔和にうわにんにく、ねぎぞうすい、むき玉子、松魚かつを雉焼きじやき厭離ゑんり江戸前大かば焼、あぢ本不生ほんぷせう早鮨はやずしをじんばら腹のはれる程に取込[み]、八功徳水のあつがんを引[つ]かけ、雑修自力ざつしゆじりきの心をふりすて、只一心に女郎狂ひ。妙法恋慕れんぼやみまよい弘誓くぜいの船の四ツ手竹輿かご、内には念彼ねんび観音力くわんおんりき刀刃とうじん段々通へども、本来無一物の客なれば、女郎は見立花はくれなゐと若者にもうるさがられ、或