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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之二)

風流志道軒伝 巻之二 05

いとしづかなるに、鳥追、大黒舞の拍子ひやうし面白く、皆出[で][ち]て、三河の万歳、春立[ち]返るあしたより嵐に逃[ぐ]る羽子を追[ひ][く]振袖ふりそでのなまめける。手鞠てまり歌一、いつもかはらぬ道中双六、上下男女入乱れ福引の銭、かけ鯛にはぜ売の聲わかちなく、門口から辰巳たつみ上り、物もう、どれ、大黒屋つち右衛門、恵美寿屋鯛兵衛、年始の御祝儀申[し][れ]ますと、さんとめの綿入わたいれ着てしりはせをりたるでつちが差[し]出す扇子箱も、礼に来べきゆかりある紫紙の似せ皮をまづへつらい先走さきばしり。夕べまでは借金にせつかれかけ

おちせふか首くゝろふかと、くつたくを持[ち][し]て、雑煮の膳にはすはりながら餅はまだ咽を通さず、上置のこぶや牛蒡をかぢつて五六十年の歳を一度に寄[せ]片息かたいきになつて居る亭主ていしゆをとらへて、お若ふおなりなされましたと虚言うそ八百の正月詞。門松かざり、竹の千代万代と寿ことぶくも元が根のなきこしらへもの故、常磐ときはの色も請[け][ひ]がたし。其外俗の嘉例かれいなどには、をかしき事も多かんめれどがいなき事はくるしからず。但古人の詞にも、一日のはかりごとは朝にあり、一年の計は元日にありとは、其本