いとしづかなるに、鳥追、大黒舞の拍子面白く、皆出[で]立[ち]て、三河の万歳、春立[ち]返るあしたより嵐に逃[ぐ]る羽子を追[ひ]行[く]振袖のなまめける。手鞠歌一イ二フ三イ四フ、いつもかはらぬ道中双六、上下男女入乱れ福引の銭、かけ鯛にはぜ売の聲わかちなく、門口から辰巳上り、物もう、どれ、大黒屋槌右衛門、恵美寿屋鯛兵衛、年始の御祝儀申[し]入[れ]ますと、さんとめの綿入着て尻はせをりたるでつちが差[し]出す扇子箱も、礼に来べきゆかりある紫紙の似せ皮をまづ諂の先走。夕べまでは借金にせつかれ欠
落せふか首くゝろふかと、くつたくを持[ち]越[し]て、雑煮の膳にはすはりながら餅はまだ咽を通さず、上置のこぶや牛蒡をかぢつて五六十年の歳を一度に寄[せ]て片息になつて居る亭主をとらへて、お若ふおなりなされましたと虚言八百の正月詞。門松飾、竹の千代万代と寿も元が根のなきこしらへもの故、常磐の色も請[け]合[ひ]がたし。其外俗の嘉例などには、をかしき事も多かんめれど害なき事はくるしからず。但古人の詞にも、一日の計は朝にあり、一年の計は元日にありとは、其本