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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之二)

風流志道軒伝 巻之二 04

仮に居にけり。浅之進は庵にありて四方の景色を打[ち]ながむれども、立[ち]つゞきたる家居の数々、ひきゝは高きにおゝわれ、或は雲烟くもけふりのたなびきてさやかには見へ分[か]ず。爰にこそ彼羽扇ならんと取出しつゝうつし見るに、南は品川、北は板橋、西は四谷、東は千住の外までも手に取[る]ごとく見へわたり、しらみの足音、蟻のさゝやくまで聞ゆれば、初[め]て羽扇の妙なる事をしり、猶また一年のありさまを見んとしばらく心にくわんずれば、忽に気色かわりて、吹[き]来る風もいと寒く道の辺はいてかへりて、土とも石とも

わきがたきに霜いたくふり渡り、師走闇の心なくくらきも、くだかけの聲せはしく烏の飛[び]かふにつれて東に横雲よこくもたなびき、あかねさす初日影のさし出[づ]れば、彼神代の昔にはあらねども、物の形もしろ/\と見えわたり、家々にはしめ引[き]はへ、松竹かざりたる間より行[き]ちがふ人の数々、国々の大小名はけふをはれと出[で][ち]装束しやうぞくの袖春風に吹[き]そらし、馬のひづめ竹輿かごの足音、其こだま十里にひゞき、見つけ/\もきらびやかに下馬先の礼おごそかなり。おほやけの事はいふもさらなり、町は家々戸をさして