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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之二)

風流志道軒伝 巻之二 04

▼開

仮に居にけり。浅之進は庵にありて四方の景色を打[ち]ながむれども、立[ち]つゞきたる家居の数々、ひきゝは高きにおゝわれ、或は雲烟(くもけふり)のたなびきてさやかには見へ分[か]ず。爰にこそ彼羽扇ならんと取出しつゝ移(うつ)し見るに、南は品川、北は板橋、西は四谷、東は千住の外までも手に取[る]ごとく見へわたり、しらみの足音、蟻の囁(さゝやく)まで聞ゆれば、初[め]て羽扇の妙なる事をしり、猶また一ト年のありさまを見んと暫(しばらく)心に観(くわん)ずれば、忽に気色かわりて、吹[き]来る風もいと寒く道の辺はいてかへりて、土とも石とも

わきがたきに霜いたくふり渡り、師走闇の心なく暗(くらき)も、くだかけの聲せはしく烏の飛[び]かふにつれて東に横雲(よこくも)たなびき、あかねさす初日影のさし出[づ]れば、彼神代の昔にはあらねども、物の形もしろ/\と見えわたり、家々にはしめ引[き]はへ、松竹飾(かざり)たる間より行[き]ちがふ人の数々、国々の大小名はけふを晴(はれ)と出[で]立[ち]、装束(しやうぞく)の袖春風に吹[き]そらし、馬の蹄(ひづめ)竹輿(かご)の足音、其こだま十里にひゞき、見つけ/\もきらびやかに下馬先の礼おごそかなり。公(おほやけ)の事はいふもさらなり、町は家々戸をさして