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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之二)

風流志道軒伝 巻之二 03

は薬師の瑠璃るりつぼ入、おんころ/\ところばし、真如しんによの月のまん丸な比丘尼びくに頭巾づきん、うば玉の闇より闇に迷ひ入[る]。それも若きはまだしもなれども、ひたひに年の波をよせ、眉に八字の霜天に登りつめたる老僧の、寺内に弟子は多けれど、たましゐくるわに入[り]ぬれば、一人もともなふものぞなき。されば世のことわざにも、落[ち]そふで落[ち]ぬものは二十はたち坊主と牛のきんたま、落[ち]そもなくて落[ち]るものは五十坊主に鹿の角。是はまた足利時代のたとへにて、今は只、老[い]たるも若きも、貴きも賎きも、野分の枝の熟柿じゆくしにて、一ッも落[ち]

ぬはなかりけり。たとへ堅固に守[り]たりとも頭陀づだの行乞食に似たりと、浅之進はさとりをひらき、かたへに有合ふ筆をとりて
  のがれんと思ひし道のくらければ
  もとの浮世に有明の月
と、墨くろ/\と障子しやうじに書[き][け]、彼仙人よりさづかりし羽扇ばかりをたづさえて光明院を忍び出[で]髪結床かみゆひどこに至[り]て元服しつゝ住[む]べき処求[め]んと方々とさまよひあるきけるが、駿河台するがだいのわたり小高き所に、まばらなる庵の有けるを主に頼[み]ものしつゝ此所に