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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之二)

風流志道軒伝 巻之二 03

▼開

は薬師の瑠璃(るり)の壺(つぼ)入、おんころ/\と蹴(け)ころばし、真如(しんによ)の月のまん丸な比丘尼(びくに)の頭巾(づきん)、うば玉の闇より闇に迷ひ入[る]。それも若きはまだしもなれども、額(ひたひ)に年の波をよせ、眉に八字の霜天に登りつめたる老僧の、寺内に弟子は多けれど、魂(たましゐ)廓(くるわ)に入[り]ぬれば、一人もともなふものぞなき。されば世の諺(ことわざ)にも、落[ち]そふで落[ち]ぬものは二十(はたち)坊主と牛のきんたま、落[ち]そもなくて落[ち]るものは五十坊主に鹿の角。是はまた足利時代の譬(たとへ)にて、今は只、老[い]たるも若きも、貴きも賎きも、野分の枝の熟柿(じゆくし)にて、一ッも落[ち]

ぬはなかりけり。たとへ堅固に守[り]たりとも頭陀(づだ)の行乞食に似たりと、浅之進は悟(さとり)をひらき、かたへに有合ふ筆をとりて
  のがれんと思ひし道のくらければ
  もとの浮世に有明の月
と、墨くろ/\と障子(しやうじ)に書[き]付[け]、彼仙人より授(さづかり)し羽扇ばかりをたづさえて光明院を忍び出[で]、髪結床(かみゆひどこ)に至[り]て元服しつゝ住[む]べき処求[め]んと方々とさまよひあるきけるが、駿河台(するがだい)のわたり小高き所に、まばらなる庵の有けるを主に頼[み]ものしつゝ此所に