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風流志道軒伝(ふうりゅうしどうけんでん)

原文(巻之二)

風流志道軒伝 巻之二 08

▼開

むれて静(しづか)なる所に酒酌(くみ)かはしたるぞ、越([こよ])なふ奥ゆかしとみゆ。或は其日も暮方の朧(おぼろ)月夜に敷[く]ものもなく、独楽(どくらく)の樽枕にいかなる夢(ゆめ)を結(むすぶ)かはしらず。いびきの聲の聞ゆるは、もぎどうにてまたをかし。御影供(みゑいく)の参を頼[り]に、江戸の田舎(いなか)の片ほとりにも煮売店の立[ち]つゞく大師河原のにぎわひ、世は空海(くうかい)とぞ知られたり。程なく卯月は衣更、仏の産湯(うぶゆ)の時も過[ぎ]、初(はつ)松魚(かつほ)の売聲高く、子規(ほとゝぎす)啼(なく)や五尺のあやめふく。飾(かざり)兜(かぶと)、幟(のぼり)の気色、空には五色の雲ひるがへり、粽(ちまき)、柏餅(かしわもち)のおと

づれに蒔絵(まきゑ)の重箱はせちがひ、夏の気色を荷(にない)出す。はんじ団扇(うちわ)、渋(しぶ)団扇、あをげばいよ/\高荷の蚊(か)や売、水鶏(くいな)のたゝく頃より五月雨の降(ふり)つゞきて、衣類に黴(かび)もみな月の氷餅、氷室(ひむろ)の使[ひ]、不二祭(ふじまつり)の群集(ぐんじゆ)の足にごみ踏立(ふみたつ)れば、麦藁(むぎわら)龍も雲を起(おこ)すかと疑(うたがは)れ、花火(はなび)の盛(さかり)は両国を照[ら]し、船は水をかくし人は地を覆(おほふ)。空にも恋は天の川、星の手向(たむけ)のいとしほらしく琴(こと)の爪(つま)音かきならす。十三日より盂蘭盆(うらぼん)の苧がら、蓮(はす)の葉、瓜(うり)茄子(なすび)に懸乞(かけこひ)の入[り]みだれ、聖㚑(しやうりやう)祭(まつり)生身(いきみ)