むれて静なる所に酒酌かはしたるぞ、越なふ奥ゆかしとみゆ。或は其日も暮方の朧月夜に敷[く]ものもなく、独楽の樽枕にいかなる夢を結かはしらず。いびきの聲の聞ゆるは、もぎどうにてまたをかし。御影供の参を頼[り]に、江戸の田舎の片ほとりにも煮売店の立[ち]つゞく大師河原のにぎわひ、世は空海とぞ知られたり。程なく卯月は衣更、仏の産湯の時も過[ぎ]、初松魚の売聲高く、子規啼や五尺のあやめふく。飾兜、幟の気色、空には五色の雲ひるがへり、粽、柏餅のおと
づれに蒔絵の重箱はせちがひ、夏の気色を荷出す。はんじ団扇、渋団扇、あをげばいよ/\高荷の蚊や売、水鶏のたゝく頃より五月雨の降つゞきて、衣類に黴もみな月の氷餅、氷室の使[ひ]、不二祭の群集の足にごみ踏立れば、麦藁龍も雲を起すかと疑れ、花火の盛は両国を照[ら]し、船は水をかくし人は地を覆。空にも恋は天の川、星の手向のいとしほらしく琴の爪音かきならす。十三日より盂蘭盆の苧がら、蓮の葉、瓜茄子に懸乞の入[り]みだれ、聖㚑祭生身