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風流志道軒伝ふうりゅうしどうけんでん

原文(巻之二)

風流志道軒伝 巻之二 06

[れ]て末をさまりがたきをいふ。わけて初春は一しほに心を改め悪しき事はなすまじきことなるに、正月といへば童までか宝引ほうびき穴一あないちの類をする事と心得て、親々も宝引せねば蚊がくふとやら馬鹿ばか律儀りちぎにおぼえこむにはあらねども、人々の好[む]所よりらちもなき理を付[け]おさなき時より見習[へ]ば、成人せいじんするに随[つ]て御器用なる御息達、勘当帳につく事は皆親々のあやまちなり。二日からは初芝居、金元の勢は家倉太鼓のひゞきにあらはれ、太夫元の手まはしはまくの間の遅速ちそくに知らる。ふるきをたづね

て新しき、八百屋お七に取[り]まぜし曾我そが兄弟が敵討、くどふ云はねど其由来は葛見くづみ、宇佐美、河津の庄。三ヶ日から七日の賑ひ、飯焚めしたきに笑[ひ]出されて七種の拍子ひやうしを違へ、帳とぢの祝にはきりふくろに入[れ]た様な番頭も活気くわつきを出し、大盃の酔が廻り上書の大福入が三十程に見へるはもうけの有[る]前表せんひやうと、なんぼ酔[う]ても数は忘れぬ、どうよくなくだ巻舌まきしたに同じ事を幾度か。十五日は綱引つなひき粥杖かゆづゑ爆竹どんどの煙空にきへて行衛もしらぬ。奉公人もやぶ入小袖の花やかなるに、裏店うらだな露路ろじかゞやけ