こうして、無名屋無二郎はいよいよ大極上上吉の人間となって、ホっとため息をついたひょうしに京伝をはきだした。
京伝は出るより早く筆をとり、これまでのあらましを三冊の絵草紙にまとめはじめる。
はき出されてからよく見ると、無二郎の身なりが前と変わって半通のなりになっているのが、ちょっとおかしい。
口から後光が射しているような絵だとは、言いっこなし。
「オヤ、おめえはオレの腹の中にいたのか? これは知らなんだ。おめえは腹の中にいて知るめぇが、オレもハメを外しすぎて大ヘマこいたが、このごろやっと目が覚めたよ。」
「これ無二郎、きさま『めでめで』と言え、おれが『たしたし』と言うから。『めでたし、めでたし』と言わねぇと、絵草紙が終わらねぇ。」
京伝戯作
自画