こうして無二郎の体は、とことん荒れ果ててしまった。〈気〉はだんだん太くなって、毎晩、毎晩、吉原へ通ったが、なんぼ金持ちの身代でもそうは続かず、このごろは借金がかさんで遊ぶこともできなくなってしまう。
すると、口が提案した。
「ここは、叔母さんのところへ行って、わたくしの先(口先)を使って金を借りやしょう。」
みんなが賛成し、連れだって叔母のところへ仕かけに向かう。
目がウソ泣きに泣きソラ涙をこぼせば、手が仰々しく拭いてやる。
「ここは一番、目から鼻へぬけ出るような(ぬけ目ない)ウソをつきたかったが、鼻を連れてこなかったとは残念だ。」
「このたびの金子をお貸しくだされぬと、わたくしは相果てねばなりませぬ。悲しや、悲しや…。」
口は空々しいことを言って、うしろを向いて舌を出す。
叔母
「そなたは、そんな心ではなかったのに、気でもちごうたか。ああ、ふた親の苦労をちっとは考えてみるがいい……と、こんなことを言っても、どうせ聞きはすまい。石仏に願をかけるようなものじゃ。」
耳は退屈していたので、つい一緒に来てしまったが、みなの話に耳をふさいでいる。
「こんな、さえねぇ茶番を聞かされると知っていたら、来なかったのに。」
足は後ろのほうで縮こまっているが、シビレをきらして額にチリをつけながら必死で耐えている。