お江戸のベストセラー

人間一生胸算用にんげんいっしょうむなざんよう

9

人間一生胸算用 09

〈気〉は、みんなにそそのかされ、いよいよ気がヘンになり、女郎屋で太っ腹にはしゃぎまくる。みなも浮かれまくって、耳にもいい思いをさせてやろうと呼びにやった。

口は、吉原の人気菓子店・竹村から上あん(あんころ餅)を取り寄せ、しこたま食らう。
目は、廊下をウロウロして女たちのふくらはぎの白さにやられる
鼻は、匂い袋の香りにうつつをぬかす。

口

「『開いた口に餅』とは、まさにこのことさ。おいらは、遠慮なく食べちょろの帯とシャレやす。」

たいこ持ち

たいこ持ち
「おまえさまは、上あんばっかり召し上がりますね。上あんばっかり五十六は、どうでござります。」

目

「ああ、どの娘を見ても色っぽい。」

耳は、芸者に何度も何度も三味線を弾かせて妙音を楽しむ。
〈気〉は有頂天に吊るし上がって、ますます調子こく。

耳

「ちっと、かんざしを貸しな。よく耳のアカをとってから聞こう。コレ、気をつけろ! 誰がおれの耳へ湯をかけた。『寝耳に水』とちがって『起き耳に湯』はかんべんだ。」

わたしゃおしどり、よいわいな
 そうじゃ、そうじゃ、そうじゃ
その気でなければ話されぬ
 ツンツ テレテットン

注釈

ふくらはぎの白さにやられる
久米仙人が飛行していたとき、眼下の洗濯女の足元チラリに目がくらんで墜落してしまったという昔話からの連想。(『徒然草』第八段)
開いた口に餅
思いがけず幸運が舞いこむこと。棚からぼた餅。
食べちょろの帯
「食べちょろ(早食い)」と「かべちょろ(帯地に使う絹織物)」をかける。
上あんばっかり五十六
俗語「十三ばっかり毛十六」とかける。「ばっかり」は擬音(パッカリ)…下品な俗語です。
おしどり
鴛鴦(おしどり)と唖(おし)をかける。原典不詳。