お江戸のベストセラー

人間一生胸算用にんげんいっしょうむなざんよう

13

人間一生胸算用 13

さてさて、みなで叔母さまをだまくらの権五郎にして、よほどの金子を借りたらしい。これで吉原のツケを返してまた遊ぼうと、みな安心してその夜はぐっすり眠りについた。

しかし足だけは、叔母のところでずっと尻の下にしかれていたので、ぐったり疲れて寝そびれている。

足

「みんな楽しんでいるのに、オイラひとりが大人しくしているのもバカらしい…。」

あれこれ考えているうちに、ふと魔がさして、足はコッソリ金の半分を持ち出してトンズラかましてしまった。

町芸者にたいこ持ちを引き連れ、通しカゴを借りきっての江ノ島・鎌倉めぐり。足は、どうせオイラの金じゃねぇと、やたらめったらおごりまくる。
なるほど、足にとってはカゴに乗ることが一番の楽しみらしい。

足

「カゴに乗りっぱなしも、しんどいものだな。ちっと歩いて休もう。てめえたちは、くたびれはせぬか。そのかわり、生きたカツオを食わせるぞ。」

芸者

「もし、旦那、江ノ島では恵比寿屋になされまし。」

次の夜──。

芸者

「足めは、いいことをしおった。」

今度は手が残りの金を盗みだし、自分もちょっと楽しもうと賭場へくり出した。しかし、しこたま負けコケて、ヤケをおこして大ゲンカをはじめてしまう。相手の頭をどデカい握りこぶしでぶん殴れば、たちまち大騒ぎ。

手

口を連れてこなかったので、手はダンマリで殴り合っている。

ばくち打ち

「これこれ、のどがつまる! はなしてくれ! 真綿で首をしめるとは聞いたが、わりゃ、裸(素手)で首をしめるな!」

ばくち打ち

「刀が武士の魂なら、出刃庖丁はバクチ打ちの魂だ! 覚悟しゃがれ!!」

注釈

だまくらの権五郎
「だまくらかす」のシャレ。平安末期の坂東武者、鎌倉権五郎とかけている。鎌倉権五郎は、江戸歌舞伎『暫』の主人公。
恵比寿屋
江ノ島の割烹旅館。現在も営業中。