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人間一生胸算用にんげんいっしょうむなざんよう

12

人間一生胸算用 12

かくて無二郎がからだは
ことのほかさはがしく
なり、きはだん/\
ふとくなりて
まいばん/\
よしはらかよひ
ければ、なんぼ
かねのある
しんだいでも
そう/\は
つゞかず
此ころは大きに
かりができて
行かれぬやうに
なりければ
口がすゝみ出
おばさまの
ところへ行
わたくしが
口べんこうを
もつて金を
かりませうと
みな/\
つれだち
おばの
ところへ
しかける

「目は、そらなきに
なき、そらなみだを
こぼせば、そばに
手がゐて
ふひてやる

気がいふ
「こゝでいちばん
めから
はなへ
ぬけ
でる
やうな
うそを
つかうと
思ふが
はなを
つれて
こぬが
くやしひ

口がいふ
「このたびの金子
をおかしくだ
されぬと
わたくしは
あい
はて
ねば
なり
ませぬ



や/\と
そら/\しき口ぼこを
申、うしろを
むいてしたを
だしている

そなたはそんな
心ではなかつたが
きがちがふたか
マアふたおやのくろうに
されるをちつとは
つもつてみたがいゝと
此やうな事をいつても
とても、もちひは
せまひ
いしぼとけに
ぐわんを
かける
やうな
ものじや

耳は、なんのしよせん
もなく、人ぞよめきに
此所へいつしよにきたり
大きにうつて
みゝをふさぎいる

「こんなさへぬ事を
きくとしつたら
こまひもの

あしは
うしろに
ちゞこ
まり
ゐて
しびり

きら

ひたい
ちりを
つけて
こた

ゐる