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人間一生胸算用にんげんいっしょうむなざんよう

15

人間一生胸算用 15

京伝はむ次郎がからだの中、三百六十のほね/\をたづねしところに、あたまの
すてつぺん、ひよめきのあたりに心がまご/\してゐたるをみつけ、もとの
むねの所へつれかへらんとせしに、又候、さきだつてのぜんたましゐ、あらはれて
つげゝるやうは、かういふ事になるらんと思ひしゆへ、京伝をからだの中へ
入おきたり、それ孟子もうしもせいはぜんなりといひて、天からうみ付たる
心はみなよき心なり、されどもおのれ/\が心のゆるみより
きといふものうごき出し、目くち、みゝ、はな
心の下知をうけず、このやうにくにがみだるゝなり
これ心のゆるむゆへ也
此しなをもつてみな/\
の心をためなをす
べしと何か三つ
のものを
さづけ給ふ

「こゝで
いちばん
しつたり
ふりに
ちんぷんかんを
いひたい
事は
山ほど
あれど
うつだろうと
思つて
つまんでいふぞ

「ハイ/\
かしこ
まりこの
とろゝ
じるさ

さて
京伝は心を
どうだうして
もとのむねの下へたち
かへりければ、心はかの
さづかりし三いろの
うちをひらき
せいじんの
ゐしよを
みゝによんで
きかせ、つぎに
ぢごくの
ゑづを目に
みせ、又
太神ぐうの
きよくいさぎ
よきあらひ
よねを口に
のませ、さて
じんぎ
五じやうの
なわを
もつて、あし
手をしばり
ければ、きも
おのづから
ほんしやうに
かへり、みな/\
はじめの
ごとく
心を
たつ
とみ
心も
また
おのれ
をつゝしみ
みな/\もよく心の
下知をまもり
ければ、無二郎が
からだのいくさ
たちまち
おさまりけり

「これみんな
いゝてへ
しやれもあらふが
もふ
いわつしやんなよ
はんもとが
だいぶかき入が
おゝくて
よみ
にく
からうと
いつたぜ