①
京伝はむ次郎がからだの中、三百六十のほね/\をたづねしところに、あたまの
すてつぺん、ひよめきのあたりに心がまご/\してゐたるをみつけ、もとの
むねの所へつれかへらんとせしに、又候、さきだつてのぜんたましゐ、あらはれて
つげゝるやうは、かういふ事になるらんと思ひしゆへ、京伝をからだの中へ
入おきたり、それ孟子もせいは善なりといひて、天からうみ付たる
心はみなよき心なり、されどもおのれ/\が心のゆるみより
きといふものうごき出し、目くち、みゝ、はな
心の下知をうけず、このやうにくにがみだるゝなり
これ心のゆるむゆへ也
此しなをもつてみな/\
の心をためなをす
べしと何か三つ
のものを
さづけ給ふ
②
「こゝで
いちばん
しつたり
ふりに
ちんぷんかんを
いひたい
事は
山ほど
あれど
うつだろうと
思つて
つまんでいふぞ
③
「ハイ/\
かしこ
まりこの
とろゝ
じるさ
④
さて
京伝は心を
どうだうして
もとのむねの下へたち
かへりければ、心はかの
さづかりし三いろの
うちをひらき
せいじんの
ゐしよを
みゝによんで
きかせ、つぎに
ぢごくの
ゑづを目に
みせ、又
太神ぐうの
きよくいさぎ
よきあらひ
よねを口に
のませ、さて
じんぎ
五じやうの
なわを
もつて、あし
手をしばり
ければ、きも
おのづから
ほんしやうに
かへり、みな/\
はじめの
ごとく
心を
たつ
とみ
心も
また
おのれ
をつゝしみ
みな/\もよく心の
下知をまもり
ければ、無二郎が
からだのいくさ
たちまち
おさまりけり
⑤
「これみんな
いゝてへ
しやれもあらふが
もふ
いわつしやんなよ
はんもとが
だいぶかき入が
おゝくて
よみ
にく
からうと
いつたぜ