①
				かくておばの所でかりしかねも
				あしと手が、らりにして
				しまひけれど、にくひとて
				あし手をきつても
				すてられず、今は
				せんかたなく、いろ/\
				しあんしてゐる所に
				此ごろきんじよでとみを
				とつたる事をみゝがきゝ出し
				そのかねをうけとる所を
				目が見てかへりければ
				きはぐつとわるきに
				なり、手にいひ付て
				あるよひそかに
				そのかねを
				ぬすみにやりしが
				しそくなつて
				みつけられければ
				ぐわいぶんわるく
				無次郎がからだ
				いまは町内に
				ゐられず
				てん/\にしよ
				どうぐを
				もち、あしめに
				まかせて
				よにげに
				したるぞ
				うたてけれ
			
②
				口がいふ
				「おらァ、いつそもとでを
				くめんして、ちつと
				きたねへが、こま
				ものみせでも
				だすべい
			
				「ナニサ、びく/\
				さつしやんな
				うしろにやァ
				此はなが
				ひかへて
				いる
			
③
				「あしがいふ
				こんやはとんだ
				さぶひばんだ
				たびをかぶつて
				くればよかつた
			
				おれもこれから
				かゝとで
				きんちやくでも
				きらねば
				ならぬ
			
④
				「つまらぬものだ、みんなのざまをみたら
				いゝ、目のよるところへざまがよるとは
				この事か
			
⑤
				「みゝがいふ、これしづかに
				はなしやれ、かべにも
				おれといふ事がある
			
⑥
				手「おらァいつそ
				てんぼうまさむねが所へ、てま
				でもはいらう
			
⑦
				かの京伝は、右の
				しゞうをとくとみて
				ゐたりしが、思ふやうはわれ思はずも
				しばらくこのからだをすみかとなし
				ことにともだちの無二郎がからだの
				事なれば、いかにもきのどくな事也
				しかし、いけんをしたいには
				とう人のからだの中ゐる
				おれなれば、それも
				でき
				ず、これはまつたく
				心が心のゐ所にいぬ
				ゆへの事なりと
				かねたいこにて
				心のゆくへをたづねる
				「まへごの/\無次郎が
				心やアイ「チキチヤンチキ
				チヤンドコドン
				これはしたり
				これではみぶきやうげんの
				ひやうしになる
			
⑧
				「あしのつま
				さきから
				せなかあたり
				まで二三べん
				たづねたが
				みへねへ
			
⑨
				「無二郎が
				かけてにげるさふで
				此くにが、がうきな
				じしんだ
			
⑩
				ここらは
				ずじがおゝくて
				あるきにくひ
				さつまいもに
				すると
				いつかうだ
			

