お江戸のベストセラー

人間一生胸算用にんげんいっしょうむなざんよう

14

人間一生胸算用 14

かくておばの所でかりしかねも
あしと手が、らりにして
しまひけれど、にくひとて
あし手をきつても
すてられず、今は
せんかたなく、いろ/\
しあんしてゐる所に
此ごろきんじよでとみを
とつたる事をみゝがきゝ出し
そのかねをうけとる所を
目が見てかへりければ
きはぐつとわるきに
なり、手にいひ付て
あるよひそかに
そのかねを
ぬすみにやりしが
しそくなつて
みつけられければ
ぐわいぶんわるく
無次郎がからだ
いまは町内に
ゐられず
てん/\にしよ
どうぐを
もち、あしめに
まかせて
よにげに
したるぞ
うたてけれ

口がいふ
「おらァ、いつそもとでを
くめんして、ちつと
きたねへが、こま
ものみせでも
だすべい

「ナニサ、びく/\
さつしやんな
うしろにやァ
此はなが
ひかへて
いる

「あしがいふ
こんやはとんだ
さぶひばんだ
たびをかぶつて
くればよかつた

おれもこれから
かゝとで
きんちやくでも
きらねば
ならぬ

「つまらぬものだ、みんなのざまをみたら
いゝ、目のよるところへざまがよるとは
この事か

「みゝがいふ、これしづかに
はなしやれ、かべにも
おれといふ事がある

手「おらァいつそ
てんぼうまさむねが所へ、てま
でもはいらう

かの京伝は、右の
しゞうをとくとみて
ゐたりしが、思ふやうはわれ思はずも
しばらくこのからだをすみかとなし
ことにともだちの無二郎がからだの
事なれば、いかにもきのどくな事也
しかし、いけんをしたいには
とう人のからだの中ゐる
おれなれば、それも
でき
ず、これはまつたく
心が心のゐ所にいぬ
ゆへの事なりと
かねたいこにて
心のゆくへをたづねる
「まへごの/\無次郎が
心やアイ「チキチヤンチキ
チヤンドコドン
これはしたり
これではみぶきやうげんの
ひやうしになる

「あしのつま
さきから
せなかあたり
まで二三べん
たづねたが
みへねへ

「無二郎が
かけてにげるさふで
此くにが、がうきな
じしんだ

ここらは
ずじがおゝくて
あるきにくひ
さつまいもに
すると
いつかうだ