お江戸のベストセラー

人間一生胸算用にんげんいっしょうむなざんよう

11

人間一生胸算用 11

「扨、きぬ/\となりければ、あしが
なくてはかへられずとよびに
やれば、あしはいそぎ来り
みな/\をしゆごし、かへらんと
しけれども、気ばかりはとかく
あとへのこり、らちが
あかぬゆへ、やう/\
だましてつれかへる

きがいふ
「なんだ、いひのこした事が
ある、そんならまて
みゝがさきへかへつたから
よびかへして
きくべい

「どうもかへしたくおつせん
よ、などゝいつもの
あはせかゞみ

あしは


いではしごをおりけれど、きは
まだ二かいにのこつて、こまらせる
足「サア、だんなどうでござりやす
それは、みれん/\

かのあさがへりの時
あしの思ひけるは
みんな
外の
手やいは
それそう
をうにたのしみが
あれど、われは
ほねをおる
ばかりで
おもしろひ
事はちつとも
なし
せめて
くたびれ
をやす
めんと
きにねだつて
われひとり
きんぜんと
かごに
のつて
かへる
足がいふ
「おいらは、あそびにくるよりは
うちでこたつへふんごんで
のび/\としてゐたひ

手がいふ
「あしをば
いつでもかごに
のせるがいゝ
ひよつといぬの
くそでもふむと
おれがふいてやらねば
ならぬ
から
おそ
れる