①
				善たましゐのつうりきにて
				京伝は無二郎がはらの中へはいりて
				みれば、はらの中に一ッのくにあり
				これかの小天地のいゝなり、なづけて
				無状無象国と云、此国のだんなは
				すなはち心なり、ばんとうは
				気なり、心と気とはもと一ッたいぶんしんなり、耳目鼻口の
				四ッのものは、おも手代にてやく人也
				あしと手は手代なり
				こしもと、ぞうりとり
				でつちまでをかねて
				つとめ中でもいそがしきつとめなり
				此ものどものこしへ一トすじづゝの
				なわをつけ、あるじの心これをしつかと
				しめくゝりゐて、手をうごかさんとする
				時は手のなわをゆるめ、あゆまんと
				する時はあしのなわをゆるめ、みな/\
				心の下知にしたがつてはたらく
				事うつかひのごとく、さるまは
				しのごとし、心の
				こまの
				たづな
				ゆる
				すな
				とは
				こゝの
				事也
				
				「無二郎が心
				かねてより
				たゞしければ
				よくおちつきゐて
				みな/\に
				げちする
				ゆへこの
				くに
				よく
				おさまりて
				おだやかし
				されど
				うらむらくは
				無二郎としわか
				ければ、ばんとう
				かぶの気はなにかに
				つけて、おり/\
				きのかわる事ありて
				ふら/\としたきに
				なれども心はしり
				ぞいてよく
				しあんしなをし
				かたくきを
				いましめて
				くらしける
			
②
				「善たましゐがはいつて
				みろといつたが
				なるほど
				きこへやした
			
③
				「京伝此やうす
				をふしぎがる
				これをみれば
				荘子が
				くわぎうの
				つのゝのうへに
				くにが
				あると
				いつたも
				まん
				ざらの
				万八でも
				あるまひ
			
④
				あしは手をおこす「これ/\手よ、めを
				さませ/\、だんながさつきから
				つなをいごかさつしやる
				手がいふ「ナアニしらねへふりを
				してゐるがいゝ、大かたまた
				はなにてばなをかんで
				やれといふ事だらう
				おそ
				れる
				だん
				なだ
			
⑤
				京伝「さて/\、おつりきなりかたのものだ、とんと
				こけがほう引をひくやうだ
			

