①
ある時、京伝うか/\と
艸庵をたち出、いづく共
なく行けるが、思はず善魂の
かくれがへ来り、人間のからだの
かうしやくをきく
「それ、人間のからだは天地の小き
やふなものじや、すなはち二ツの
目は月日のごとく、肉は土にひとしく
ほねは岩石のごとく、血は水にて
脈は水のさし引にひとしく
毛や爪は艸木にて、つくいきと
ひる屁は風のごとく、なみだと
小べんはあめにひとしく
ものいふは雷のはつするが
ごとく、からだに生る
のみしらみはとりけだもの
の生ずると同じどうり
それじやによつて、またぐらの
谷あいにはまつたけもしやうじ
へその下のうみべにはあかかいも
うまるゝでないか、そのうち
ひといふものは天地ぞうくはの
神にひとしく、このものゝ
りやうけんしだひにて、せいじんや
ほとけもうまれ、又おにも
てんぐもうまれる、がてんか/\と
古風なせりふにて
博物志にいふ土肉川脈の
引くりかへしをいひきかせる
「○老子ハ聖人虚其心ヲト云
○大学ニハ先正其心ヲト云
○華厳経ニハ
唯一心ト説テ
○心こそ心
まよはす
心なり
○心だにまことのみちにかなひなばといふ
神詠を思ふにつけ、とかく大事な
ものは心じや
②
「大事なこゝろほんだはら
などゝわるひぢ口を
いふなども
やつぱり心のしわざじや
③
京伝はたゞ御もつとも/\と
あはせてゐる
④
「こゝはさしづめ
ばいやくみせの
いひたてなら
しんのうの人形と
いふばなれど
それでは
あんまり
いろけがないから
しんのうの
めうだいに
しんぞうと
しやれたのだ