お江戸のベストセラー

鎌倉かまくら頓多意気とんだいき

8

鎌倉頓多意気 08

畠山どのは、鎌倉、雪ノ下のムカデの金兵衛という金持ちを呼びよせて、君のおん頭の張り子を作らせる。

重忠「どうあろうとも、おそろしくデカくやらかせ。おいらの頭でさえ見てのとおりだ。まして頼朝さまの頭、ど外れにいたせ。心得たか。古紙がたんと要るなら、大磯からきた文殻ふみがらでもまわさせよう。」

金兵衛「委細、かしこまりました。だいぶ紙が要りましょう。ふみがらひいらげは、どうでござります。」

どうやら、下々の者も頭には苦労しているようす。
「おらが頭も、こんなちっぽけでは鎌倉武士には見えまいから、りっぱな頭にしたい。安くできればいいが…ど苦労する。」

これを重忠どのが聞きおよび、お達しを出す。
「下々の者は、みかんカゴにチリ紙を張って、サッと目鼻を描くだけでよし。」

下々の者「おれの頭には、シラクモ(白癬)のあとがある。このとおりにしよう。どうせなら、そっくりにしたい。」
下々の者「どうでもいいわな。どうせ、いい男ではなし。誰が、ニセ首だと言うか。」

注釈

大磯からきた文殻
大磯は遊女街。文殻は読み終わって不要になった手紙。遊女にとって上客をつなぐために手紙はかかせなかったので、遊女街では文殻が大量に出た。
ふみがらひいらげ
不詳。節分の「豆殻柊(まめがらひいらぎ)」のもじり?