お江戸のベストセラー

鎌倉かまくら頓多意気とんだいき

10

鎌倉頓多意気 10

平家の侍大将・悪七兵衛景清あくしちびょうえかげきよは、頼朝公に一太刀うらみ晴らさんと、時にはういろう売り、もぐさ売りと姿を変えてつけ狙ったが、なかなかうまくいかず、むなしい日々を送っていた。
そんな時、頼朝公のおん頭が置いてあるところに笹竜胆ささりんどうの幕があるのを見つけて、張り子とは気がつかず、大仏供養のときのように僧兵に変装して入り込んだ。

畠山重忠に気づかれたが、重忠は例のデカ頭をかぶっているので、まわりがよく見えない。
「景清、三度までは見逃がす、見逃がす!」
ただ負け惜しみを言うばかり。

景清「これはなんと珍しや。畠山どのの顔に冬瓜とうがんが実りましたな。なんとまあ、いい肥やしをした畑(畠)山どの。」

「景清、待て…待て…待て…。」
重忠はとりあえず叫んだが、その声デカ頭にこだまして、ただむなしく響くだけ…。

注釈

悪七兵衛景清
平景清(たいらの かげきよ)
『平家物語』で見せ場をつくる以外はあまり記録がなく史実がよくわからない武将。逆にそれが庶民の萌え心を刺激したのか、江戸期のフィクションで超絶ヒーローとなり「景清物」としてさまざまな作品が創られた。
江戸のお話では、景清は平家滅亡後も頼朝をしつこくつけ狙うが、毎回趣向を凝らした変装で襲撃するのがお約束。
ういろう
小田原の透頂香(とうちんこう)という薬。喉の妙薬で口臭も消す。お菓子のういろうとは別物です。
笹竜胆
源氏の代表的な家紋。とはいえ、頼朝が実際に使っていたかどうかは不明。頼朝は源平合戦のときの源氏の白旗がお気に入りだったらしく、自分だけの特権として無紋の白旗を使い、他の御家人たちには強制的に紋を入れさせた可能性が高い。鎌倉市の市章も「ササリンドウ」じゃなく、白地無紋にしたらカッコイイかも。
大仏供養
平家による南都焼討で焼失した東大寺の大仏殿を頼朝が再興したときの落慶法要。
江戸のお話では、景清は大仏供養のときに僧兵に変装して頼朝を狙うが、重忠に見破られて失敗する。
三度までは見逃がす
江戸のお話では、頼朝は景清をいずれ自分の家来として迎えたいと思っているため「景清が襲ってきても三度までは見逃せ」と重忠に言いつけてある。