梶原の親父どのは、年寄りだけになんでも安ければいいと、でき合いの頭にヒゲをつけてすませてしまった。
息子二人は、それじゃげぇぶん(外聞)が悪いから、どうせなら意気ちょんとした(粋な)頭をあつらえようと、張り子屋を屋敷へ呼んで細かく注文をつけている。
梶原弟「ずいぶん顔料のいいのを使ってくれ。金はいくらかかってもいいぞ。」
梶原兄「朝坊のは、でき合いとはいいながら、しごくよいて。それは、よい細工人の手によるものだろう。」
朝比奈「なんにもいいことはないが、道々、買い食いをするのにはいいね。口をいごかす(動かす)のが人に知れねぇから。それ、ちょんとこうかぶったところが、かぶりごこちが妙だね。」
張り子屋「たいへんよくお似合いでござります。」