お江戸のベストセラー

鎌倉かまくら頓多意気とんだいき

3

鎌倉頓多意気 03

梶原平三かじわらへいざは年寄りの貧乏性なので、なるべく銭金のかからないようにと、朝比奈あさひなを連れて浅草茅町かやまちのおもちゃ屋を物色している。

梶原「どうだ、その座頭の大頭にヒゲでもつけたら、間に合いそうだ。」
いくら探しても、岩永左衛門いわながさえもんぐらいの大頭はあっても、梶原の白髪頭はさっぱりなし。しかし、この歳で今さら新しく作らせるのもバカらしく、なんぞいい手はないかとケチなことを考えている。

手代「朝比奈さまのはござります。ご覧ください。しかも、できがようござります。」

朝比奈「よしよし、それはいくらだ。百文か。よし、なんの得にもならないものに銭がでる。」

注釈

梶原平三
梶原景時(かじわら かげとき)
頼朝の家人。頼朝に重用されたが汚れ役(味方のスパイなど)を引き受けていたため、頼朝の死後、鎌倉御家人たちに追放され一族ごと滅ぼされた。
江戸のお話では、陰険な敵役として描かれるときと、思慮深く渋みのある侍のときがある。現代でも評価が分かれる人物。
朝比奈
朝比奈義秀(あさひな よしひで)
和田義盛(鎌倉幕府初期の重鎮)の三男坊。剛力無双で知られ、父義盛が打倒北条をかかげて挙兵した和田合戦で大暴れして北条方を震撼させた。
江戸のお話では、人の良い三枚目の役どころが多い。
浅草茅町
現在の浅草橋辺り。雛人形や五月人形などの店が並び節句前には市が立って賑わった。江戸時代から続く老舗、吉徳や久月は現在も営業中。
岩永左衛門
江戸期の源平合戦物によく登場する、源氏方の悪役。赤っ面で傲慢。