景清は大仏餅の店にすっかり尻をすえて、なかなか烏帽子や直垂ぐらいでは承知しない。といっても、頼朝を生かしておけば、いずれわが目をくり抜くハメになってしまうので、開き直った。
「官金の千両をもらって行こう。」
すると、頼朝公の態度が一変する。
「もはや、わが計略を見せん! もうこりゃ、アホウではいられぬわ!」
頼朝公が景清の頭巾を引っぱぎなされば、そのひょうしに団十郎の似顔の面落ち──よくよく顔を見れば、梶原が家来の番場の忠太?!
頼朝「さてこそ、わが作りアホウにて、こすっからい奴らの企みを見破ったり! サァサァ、逃げられぬところだ! 景清と名のれ!!」
頼朝公に責められて、忠太は苦しそうな声で白状した。
「まったく……わたくしは……景清ではござりません。そもそも、こんどのお江戸見物をおすすめして思うがままにしようとしたのは、みんな主人の梶原、それに、岩永どのと俣野どのでござりますー。」
頼朝「今までは、わざと徳次流の道化方になって、うぬらが化けの皮をはがしたのだ。」
岩永と俣野は、バレてはもはやこれまでと頼朝公に斬りかかった──が、ちょうどその時──真田の与市、鎌倉へ帰ったと思わせ、頼朝公と示し合わせて変装して忍んでいたが、ここで正体を現し二人にたっぷりとけじめ汁を食わせる。
俣野「わりゃ、上巻では若衆であったが、いつの間にか野郎になったな。」
真田「野郎になったのも、きさまらをダマすためだわ。」
忠太「ああ、いたた、いたた、逢いた見たさは飛び立つばかりと…シャレるとこでもねぇ。」