お江戸のベストセラー

花東はなのおえど頼朝公御入よりともこうおんいり

3

花東頼朝公御入 03

石橋いしばしの合戦(石橋山の戦い)

こうして頼朝公は、野暮な重忠を留守に残し、お土産がもったいないので諸大名へも知らせずに、岩永と俣野、真田の三人をお供に、ごくお忍びで江戸へ向かう。

やがて品川の宿場も過ぎると、今日から江戸入りなので祝いに一杯飲もうと、岩永と俣野のはからいで高輪の石橋万屋いしばしよろずやへ立ちよった。
岩永と俣野は、酒に酔って得手吉えてきちをおすすめし、二人でなれ合いたつを切って頼朝公をさんざんに負かしてしまう。
これを今に『頼朝、石橋の合戦』という。

俣野は、大引おおひき赤蔵あかぞうが揃いそうになるが、赤が九の上にあったはずだと、いちゃもんをつけて喧嘩になる。

岩永「これ与市、待ちやれ。上が俣野か下が俣野か知れねえ。」

真田「岩永さん、それ見ねえ、とんだことを言うぜ。この九は俺のところへ入るのだえ。どうも頭がおかしくなったようだ。」

俣野「らいちょう(頼朝)の御前だ。静まれ、静まれ!」

頼朝「そんなら、まき直し、まき直し。」

<屏風>
美人捲珠簾深坐
蛾眉但見涙痕湿

注釈

得手吉(えてきち)
「例のやつ」のような意味。この場合は天正カルタ(花札の元となった和製トランプ)を使った「めくり」というカードゲームを指す。仲間内で気軽にできる博打として当時大流行していた。
竜を切って
ドラゴンの絵札を捨てること。二人で協力して頼朝の役が揃わないようにしている。
石橋の合戦
元ネタは「石橋山の戦い」。
伊豆に流されていた頼朝が挙兵し小田原の石橋山で平家方と戦ったが、多勢に無勢で惨敗した。
大引 札を引く順が最後の者。
赤蔵 赤七・赤八・赤九が揃った役。
上が俣野か下が俣野か知れねえ
石橋山の戦いで俣野景久と真田与市が組み合ったとき、泥だらけでお互いに見分けがつかなくなってしまい、加勢しようとした俣野の仲間に、上にいる与市が「上が景久、下が与市」と言い、慌てた景久が「上ぞ与市、下ぞ景久」と叫ぶ。要するに、どっちも「おれは与市じゃねえ!」と言い合った。
→「真田 vs. 俣野」の取っ組み合いは、こんなかんじ
美人捲珠簾深坐~
李白「怨情」。
美人捲珠簾 深坐顰蛾眉
但見涙痕湿 不知心恨誰
美人、珠簾(しゅれん)を捲き、深く坐して蛾眉(がび)を顰(ひそ)
ただ見る涙痕(るいこん)の湿(うるお)い、知らず、心に誰を恨むか

材木座書房

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