鎌倉の将軍、源頼朝公。
四州(全国)を治めなさってから、なびかぬ草木もなく、臣下多き中にも岩永左衛門と俣野五郎、君をおだててそそのかす。
「花の東へ御下りになって江戸の繁栄をご覧になれば……お楽しみいっぱい!」
二人にノセられて、頼朝公もぐぐっとその気になる。
「江戸へ下るべし!!」
頼朝「どうだ重忠、おまえは鎌倉に残って、おれの留守を固く守れ。たいてい、旅の留守に女房を盗まれるものだ。」
重忠「ご両人がお供なさるからは、おぬかりはあるまいが、念のために真田の与市をつけてあげます。」
岩永「真田の与市は、頼朝公の御家来か。こいつは大笑いだ。」
俣野「なんだ、真田ヒモ? 三味線箱を結わえるのか。」
頼朝「重忠、供には岩永と俣野を連れるから、大丈夫だ。」
俣野「なにさ、しげ印。われら両人がお供するからは、ちっともウカツな事はさせぬ。」
真田「このたびの江戸への御下りは大切な御用なので、拙者がお供つかまつりましょう。」
岩永「こう上下を痛めつけて座ったのに、なんにも食い物はねえの。おいらはやっぱり、 ねぎま鍋で熱燗がイイね。」