お江戸のベストセラー

花東はなのおえど頼朝公御入よりともこうおんいり

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花東頼朝公御入 01

自叙

頼朝公は楽屋での威勢はイマイチだが、その大天窓おおあたま(大頭)には貴人の気質がある。そこを見こんだ策略で、あたって砕ける岩永いわなが左衛門さえもん俣野またの五郎ごろう。その悪臣の狙いは金。だまくら山のうそつき夜に浮かし出したる江戸見物。秩父が四相鼻明はなあいたり。作者の趣向は、花相似はなあいにたり、年々歳々、のこのこさいさい──云々。

酉新春
山東京伝 述

注釈

威勢はイマイチ
江戸歌舞伎で頼朝はあまり人気がなかったので、大部屋の役者があり合わせ的に演じることが多かった。
大天窓
江戸では「頼朝の頭はでかい!」という通説があった。
岩永左衛門、俣野五郎
2の注を参照。
だまくら山のうそつき夜
「鎌倉山の星月夜」のもじり。
秩父が四相
畠山重忠(はたけやま しげただ)
2の注を参照。
花相似たり、年々歳々~
唐詩「年々歳々花相似たり、歳々年々人同じからず」のもじり。
(毎年毎年、花は変わることなく咲くのに、人の世はなんと変わりやすいことか)