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花東はなのおえど頼朝公御入よりともこうおんいり

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花東頼朝公御入 06

頼朝公は、神田川沿いの鎌倉河岸に宿をおとりになって、毎日毎日、深川へ通いなされたが、なんぞ、みながおどろくようなことをしたいと思案をはじめた。

頼朝「どうだ岩永、どっとウケるよい策はあるまいかの。とかく三人寄っても凡夫の知恵では、いかぬのう。」
岩永鴻池こうのいけでさえ悪く言われた。こっちは鎌倉の将軍さまだから、しみったれたケチな策ではいけません。」

みなで頭をひねったが、これといった妙案も浮かばずにいたところ、俣野がふと思いつく。

俣野「お待ちなされませ。江戸のヤツらを熱狂させる策がござります。前に鎌倉の鶴岡八幡で鶴を放したことがあったが、こんどは深川の富岡八幡で鶴を放してはどうだろう。」
頼朝「こいつは、まんざらでもねぇ。しかし、今どきただの鶴では面白くないから、ここは人間の鶴を放すことにしよう。」

だんだん策が大げさになる。

岩永「何がなんでも、鶴という名のついた女郎を、みんな請け出すつもりだ。」
亭主「これはちと、ありがた迷惑だ。そう一度に身請けがあっては、あとの商売ができませぬ。」

注釈

三人寄っても凡夫の知恵
「三人寄れば文殊の知恵」のもじり。
鴻池でさえ悪く言われた
大阪の豪商・鴻池善左衛門が吉原で金にあかせて無礼を働き、扇屋の筆頭女郎・花扇(はなおうぎ)に冷たくあしらわれたというウワサ。
鶴を放した
頼朝が鎌倉の鶴岡八幡宮で行なった放生会で、千羽の鶴を放ったという伝説。

材木座書房

ぴーちょ

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