頼朝公は、神田川沿いの鎌倉河岸に宿をおとりになって、毎日毎日、深川へ通いなされたが、なんぞ、みながおどろくようなことをしたいと思案をはじめた。
頼朝「どうだ岩永、どっとウケるよい策はあるまいかの。とかく三人寄っても凡夫の知恵では、いかぬのう。」
岩永「鴻池でさえ悪く言われた。こっちは鎌倉の将軍さまだから、しみったれたケチな策ではいけません。」
みなで頭をヒネったが、これといった妙案も浮かばずにいたところ、俣野がフト思いつく。
俣野「お待ちなされませ。江戸のヤツらを熱狂させる策がござります。前に鎌倉の鶴岡八幡で鶴を放したことがあったが、こんどは深川の富岡八幡で鶴を放してはどうだろう。」
頼朝「こいつは、まんざらでもねぇ。しかし、今どきただの鶴では面白くもないから、ここは人間の鶴を放すことにしよう。」
だんだん策が大げさになる。
岩永「何がなんでも、鶴という名のついた女郎を、みんな請け出すつもりだ。」
亭主「これはちと、ありがた迷惑だ。そう一度に身請けがあっては、あとの商売ができませぬ。」