お江戸のベストセラー

霞之隅春かすみのくまはるの朝日奈あさひな

10

霞之隅春朝日奈 10

朝比奈は、異国の人を連れて来て銭儲けしようとたくらんだが、長旅の旅費や手長島の騒動、日々の雑費などで結局大損をこいてしまう。

小人島は、小さき心ながらこれを気の毒に思い、鎌倉の雪ノ下に見世みせを出して、米粒に三社の託宣、粟粒に六字の名号(南無阿弥陀仏)、青豆に漢詩の五言絶句、一寸四方の紙に百人一首などの細字を書いて売り出した。これが鎌倉中の評判となり、大きに銭を儲けて少しは朝比奈の損を埋める。心優しき小人島である。

朝比奈「細字は、なんでもお好みしだい書かせます。」

「八幡さまのお宮は、よくできましたそうでござりますね。」
「一昨年、葺屋町ふきやちょうの河岸へ出た小人島は、このおふくろだということだ。」
「これは、珍しいことじゃ。」

注釈

三社の託宣
天照大神・八幡大菩薩・春日大明神の託宣。
葺屋町
現在の日本橋人形町。江戸三座の市村座をはじめ芝居・見世物小屋が軒を連ねていて、小人島の出し物もあった。