女護島はまだ使い道があるが、どうにもつぶしのきかないのは、くろん坊の女。何かうまい手はないかと思っていたが、このごろよく看板で見かける『オランダ伝来の洗い粉』なるものを使わせてみたら──あら不思議、闇夜に月が出るごとく、浦島の玉手箱、紺屋の白袴、粉屋のねずみときて、たちまち白くなる。
朝比奈「生まれ変わったようだ。そうしたところは、まんざらでもねぇ。」
くろん坊女「あんまりほめてくんなさんな。夢かもしれねぇ。」
朝比奈「これはこれはとばかり、顔の吉野葛。きれい、きれい!」
背高島「そう半分洗ったところは、二朱見世のしるしというものだな。」
手長島は大の酒好きなので、ある夜、朝比奈の留守をいいことに、酒樽の寝入ったところを見はからって、奥座敷から手をのばしてコッソリ呑み口の栓を抜いた。
しかし、腹に穴のある人が目を覚ましてこれに気がつき、呑み口を押さえて、ちょうど小便が出そうだったので酒の代わりに茶碗に小便を仕込んでやる。
手長島は気づきもせず、それをグイっと引っかけ、いい心もち。
穿胸国「最近ちと熱っぽいから、まるで古酒のような小便だ。」
そういえば、ある人が言っていた。
「酒の出る音は、ドクドク。小便の出る音は、ジャアジャア。」
さては、安宅の謡で『ドクジャ(毒蛇)の口を逃れる』とは、このことか?