お江戸のベストセラー

霞之隅春かすみのくまはるの朝日奈あさひな

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霞之隅春朝日奈 02

こうして朝比奈は再び異国へ渡り、異形の人をそれぞれ一人ずつ日本に連れて来た。
異形の人というのは、「大人国たいじんこく」「小人島こびとじま」「背高島せいたかじま」「手長島てながじま」「女護島にょごのしま」「くろん坊女」。それと「穿胸国せんきょうこく」といって腹に穴が開いた人の総勢七人である。
一行は、まず長崎に着き、急ぎ鎌倉へと向かう。

朝比奈は、どういうわけだか女護島とくろん坊の女には日本風の格好をさせている。これは思うに、絵草紙のことを心得た朝比奈の絵柄の面白さをねらった気づかいであろう。

小人島が大声で叫んでいる。
「これ、大人国たいじんこく、もちっと離れて歩いてくだせぇ! これじゃ私があまりに小さく見える!!」
しかし、大人国たいじんこくの耳には蚊のなくほどにも聞こえていない。

大人国たいじんこく万八まんぱち(嘘っぱち)を言う。
「みんなには見えめぇが、おれにはもう鎌倉が見えるわ。ツツテン、ツツテン。」

背高島「私がお供するからは、川留めの心配はいらねえのさ。」

女護島「わっちとおまえが、こう連れだっていると、まるで笠森の米の団子と土の団子だね。」

注釈

笠森の米の団子と土の団子
江戸、谷中の笠森稲荷に平癒祈願でお供えする団子。願を掛けるときは黒い土の団子、病気が治ったら白い米粉の団子を供える。