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悪七変目あくしちへんめ景清かげきよ

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悪七変目景清 02

あけましてよい春の日のこと、頼朝公は景清がくり出した目玉を重忠にくだされた。
頼朝緒じめにでもしろ。」

生の目玉を押しつけられて、困惑の重忠。
「ばからしい。頼朝さまとしたことが、生の目玉がどうして緒じめになるものか。いいものをやろうと言って、だまさしった!」
重忠は新造しんぞう衆のような口ぶりで、目玉を掃きだめへ捨ててしまう。

ところが、このごろ聞けば、この両目が鎌倉中を徘徊しているらしい。
「平家の仇、頼朝をにらみ殺してくれん。どうするか、長い目で見ていろ!」
どうも目玉は、気長に謀反をたくらんでいるようす。
さすがにほっておくわけにもいかず、頼朝公は、岩永と重忠に一月替わりの捜査を仰せつけた。

重忠「おそらく目玉めらは、今だに納得していないのでしょう。」

<つい立ての文字>
十目所視

注釈

重忠
畠山重忠(はたけやま しげただ)
鎌倉幕府初期の有力御家人。源平合戦での戦功も多く人望もあり「鎌倉武士の鑑」とされた。
江戸のお話では、決まって頼朝の忠実な側近(世話係)として描かれる。
緒じめ
袋や巾着のひもを束ねて締める玉。
新造(しんぞう)
振袖新造。遊女見習い。
岩永
岩永左衛門(いわなが さえもん)
江戸期の源平合戦物によく登場する源氏方の悪役。赤っ面で傲慢。
十目所視
儒教の経書『大学』。
「十目所視、十手所指、其厳乎」
(十目の視る所、十手の指す所、其れおごそかなるかな)

材木座書房

ぴーちょ

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