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悪七変目あくしちへんめ景清かげきよ

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悪七変目景清 07

捕手の者どもは、目代わり(身代わり)とも知らずに、入れ目所の棚に並べてあった細工物の目玉を持ち帰って来た。この中にきっと景清の目玉がいると思っても、誰も目利きすることができないので、重忠は知恵を絞る。

重忠「なんぼ英雄の目玉でも、妙手の琴を聞くときは涙をためるものだ。細工物の目玉は生ではないから涙は出ない──これで、この中に景清の目玉がいればわかる!」
トボけた理屈をひねり出して、重忠は琴の名手を探しはじめる。やがて和田義盛のはからいで、吉原の京町一丁目、四つ目屋の傾城けいせい七里ななさとを召して目玉の前で琴を弾かせた。

七里水晶びいどろの目玉並べし床のうち、泣く子も目をばあけ暮れも、無理なこじつけ書くからに♪」

この絵草紙を、扇屋の片歌さんや菊園さんに見せたいね。

重忠は、まばたきもせず、にら目(にらみ)つけている。
これが『大目付、小目付』の由来である。

重忠「これはまた、吉原の寄り合いで見たのより、白ちりめんのしごき後帯姿は格別美しい! 景清の目より、おれの目が感激だ!!」

注釈

和田義盛
鎌倉幕府初期の重鎮。
四つ目屋の傾城七里
傾城は美人の遊女のこと。
吉原・四つ目屋の遊女七里は作者京伝が手がけた美人画『新美人合自筆鏡』の中で描かれています。
→『新美人合自筆鏡』
水晶びいどろの目玉並べし~
『壇浦兜軍記』の三味線曲、
「翠帳紅閨(すいちょうこうけい)に枕ならべる床のうち、馴れし衾(ふすま)の夜すがらも~」
と、ことわざの「泣く子も目をあけ」の無理なこじつけ。
菊園
吉原・扇屋の筆頭女郎だった花扇(はなおうぎ)の番頭新造(女郎の指導役)。後に作者京伝の妻になる。
後帯姿
遊女は吉原では帯を前で結ぶ。七里が町娘のように帯を後ろで結んでいるので、重忠が萌えている。