お江戸のベストセラー

悪七変目あくしちへんめ景清かげきよ

5

悪七変目景清 05

隠密回りの役人が訴え出た。
「このあいだ見かけましたが、非人の風体で目の四つある者がウロついております。とても怪しいヤツです。」

岩永「それこそ、確かに景清だ。前にも非人に変装したことがあるから、こんどは非人の目の上へ入ったとみえる。早々に召し捕って来い!」

岩永の命令で、怪しきヤツがお白州へ引き出された──が、

岩永おきゃぁがれ! そいつは節用せつように載ってたヤツだ。とんだ無駄をした。」

役人「見てください! 目が四つござります…。」

蒼頡そうけつ「そんな、うさん臭い者じゃあごんせん。唐土もろこし蒼頡そうけつという者でごんすよ。永字えいじ八法はっぽうでも問わっしゃるかと思いました。ああ、ばからしい。」

『目が多いとて景清でごんすなら、八目うなぎもみんな景清でごんすかの』
という文句が、たしか草摺引くさずりびきにあったな。

注釈

おきゃぁがれ
「よしやがれ」の江戸弁。
節用(せつよう)
国語辞典。江戸期には百科事典的なものもあった。
蒼頡(そうけつ)
鳥の足跡から着想を得て漢字を発明したとされる中国の伝説上の人物。肖像画では目が四つ描かれる。
永字の八法(えいじのはっぽう)
書法伝授方の一つ。「永」の一字の中に、書に必要な技法八種すべてが含まれているという意。
草摺引(くさずりびき)
歌舞伎舞踊曲。曽我五郎と朝比奈三郎が鎧の草摺りを引き合う。
「ひげが似たとてやっこでごんすなら、ドジョウなまずが、みんなやっこでごんすかの♪」

材木座書房

ぴーちょ

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